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そうしていつか見上げた空が、青く澄んでいると願って。
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「ミーティング?」
「そう。今日水曜。だからミーティング」
 でしょう、と首を傾げるイオリに、同意するように冬夜が頷く。
「………でも空」
「青くっても赤くっても薄暗くっても、ミーティングがあることに変わりはないわよ」
 まあ、それはそうなんだけど………。
 何が楽しくて、こんな夢にまで描いた昼間から晴れた《水の都》を前にして、わざわざあのあたしに頭痛しか与えてくれない部屋に行かなくてはいけないのか。
 でもなあ、行かない、っていうのもなあ………。
 うーん、とひとしきり悩んでから、ぽんと手を打つ。
「ちょっと顔出したら、もう行って良いよね。よね?」
 どうせ大して話なんてしないんだし。
 と、若干失礼なことを思いつつ、二人の顔を見、同意を求める。
「まあ…良いんじゃないか…?」
「だよね! よし、そうと決まったらさっさと行こう」
 がっしり、と二人の腕を掴んで歩き出す。
「またね~、利央ちゃんにイオリちゃんに冬夜くん」
「ばいばい」
 後ろから聞こえた二人分の挨拶に、ばいばーい、と返した。

 足取りは自然と速くなる。うきうき気分が抜けない。おそらく小学生の時に行ったピクニックの時よりもずっと気分が良い。というかあの時は、楽しむような気分にはなれなくて、既に色々と厄介事に巻き込まれる体質が開花していたような気がする。
 …思い出したら頭が痛くなってきた。
 ガラッと扉を開けると、中にいた全員が一斉にこちらを見た。ちょっと不気味。
 なんだなんだ、と思っていると、梶木先輩が「ようやく来たか!」とにやにやと…とりあえず、良い予感は生まれない顔をしていた。なんだろう。また何か厄介事か。それとも厄介な頼みごとか。…前者も後者もあまり変わっていないような気がするが。
(もしそうだったら、絶対逃げる。今日だけは絶対に何がなんでも引き受けない)
 だって、いつまでこの空の気まぐれが続いてくれるか全くわからないのだ。この人に付き合ってまたとない機会を逃したら、絶対に一生後悔する。そして一生この馬鹿副部長を恨む。
 そんな意味合いを込めて睨み付けると、けれどそんなことは意にも介していないようで、
「いやあ~、良い天気だな~」
「本当ですね。本当ですからあたしは早くミーティングを終わらせて写真を撮りに行きたいんですけど」
「こんな日は外に出て遊びたくなるな~」
「そうですか。あたしはなりませんね。勝手に一人寂しく遊んでてくださいよ」
 ああ、こんな馬鹿の相手をしている時間が惜しい。
「…もうちょっとさ、会話を楽しくしようとか思わない?」
「思いません。全く」
 あたしの返答があんまりだと思ったのか、少ししょげた梶木先輩。しかし、あたしの返答が彼曰くの『あんまり』であるのは、自分の日頃の行いが悪いからだとは思わないのだろうか。これが琴架先輩か逆井先輩あたりだったら、あたしはもっと会話を弾ませようと努力するだろう。
「まあそう言うなって。なに、空は逃げない!」
「逃げるかもしれないから焦ってるってことぐらい察しろ!」
 びしいっ、とまたわけのわからないポーズを決めた梶木先輩の頭をその辺に積んであった本の平面で殴る。痛え…、と呻く副部長に、自業自得だと言い放った。角じゃないだけ感謝して欲しいくらいだ。
「利央さんは空が好きなんですねっ」
 にっこりと笑った真奈ちゃん。
「うん。好き。青いし」
 それを肯定で返した後に、あたしは複雑な想いに駆られた。真奈ちゃんは可愛い。可愛いが、なんとなくこの先輩後輩像に疑問を持たなくなってきている気がする。現にこの光景を前にして、普通に笑っていらっしゃる。それはいささか問題があるのではないか。あたしが言うのもなんだが。
 …まあいっか。
 それは忘れることにして、逆井先輩を見た。
「そういうことなので、あたしは外に行ってきます」
「ああ、了解した。といっても、今日はみんな外で撮るらしいがな」
「そうなんですか」
 それはさして驚きではない。《水の都》でこんな風に晴れるなんて、前例のないことなのだ。あたしほどではないとはいえ、この機会を逃してなるものかと思っているに違いない。
 と、そこまで考えたところで、もしかして自分が今しがた本で殴ったこの男も、皆で外に行って写真を撮ろうと言いたかったのかもしれない、ということに思い至った。それにしては、『遊ぼう』とはいう単語が出ていたような気がするけど。確かにこの副部長は、写真撮るよりも、外ではしゃぎまわってそうなタイプだ。
 ………………暴れたら一発殴ろうか。
「………お前さ、今すっごく嫌なこと考えなかったか?」
 ばれた。
「気のせい、じゃないですか? 考えてませんよ」
 少なくとも、あたしにとっては、嫌なこと、ではないし。や、嫌なことか? 人を殴るのが趣味ってわけでも、好きってわけでもない。とりあえず黙っててくれるか、そうでなければ自分の撮影の邪魔をされなければ別にどうでもいいわけだし…。
「ただ、あたしの邪魔をしたりすると、天災が降りかかるかもしれません」
「………それ、明らかに故意によるものッスよね。天災違うッスよね」
 和羽くんが引き攣った顔をしてこっちを見ている。
「天才が降ってくるなら良いんじゃないですか…?」
「琴架先輩。それたぶん漢字が違います。天災です。自然現象のアレです。災害です」
「ああっ、そっちですか。それは大変です。地震とか、怖いですから」
 何度もこくこくと頷く琴架先輩。表の意味はわかったようだけど、裏の意味まではわかっていないようだ。本当につくづく、どうして琴架先輩みたいな天然な良い人が、あの梶木先輩の彼女なんてやっているのか、疑問に思う。

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登場人物

++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
 青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。

++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
 利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。

++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
 写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。

++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
 夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。

プロフィール
HN:
岩月クロ
HP:
性別:
女性
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