安心感

「ふあ…」
　隣の彼女は眠そうだ。
　クラスの大半の人間がそんな感じで、うとうとしている。一番後ろだから、よくわかる。
　なんでだろう、という疑問は、ちょっと前に解決した。ハギが教えてくれたからだ。彼曰く、「生物の授業はみんな眠くなっちゃうんだよ。先生の語りがゆったりしてるから」らしい。へえ、と返しておいたが、実際受けてみて確かにそうかもしれない、と思った。
　いかにも優しそうな顔をしている生物の教師は、少々間延びした口調で、教科書の説明をしている。黒板に書いてある説明はわかりやすいものだが、如何せん眠さの方が勝り、頭に入ってこない。
　どこにいっても、こういうのは変わらない。
　前の学校でも同じような感じだったな、と思い出す。それから、その時の時間割を頭に浮かべ、今がちょうどその「眠い授業」の時だと気付いた。
　向こうの友人たちの顔を思い出し、少し笑う。
（あっちも眠い思いをしてるんだろうな…）
　変わらない。
　あちらも、こちらも。
　そのことに少しだけ安堵しながら、利央に大丈夫かと目で訊ねると、こちらの視線に気付いた彼女は、「へーき」と小さな声で答えた。
　たぶんこれは平気じゃない。
　まあもし当てられたら、その時は助けてやればいいか。と思い、また前を見た。

　そこで見える光景に、日常を感じて、生まれる安心感。

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