Ａｃｔ.５-５－７

　次の日。
「と、いうわけで、引っ越すことにしたの」
　にこにこにこ、といつになくご機嫌な母さんが、とんでもない爆弾発言をかましてくれた。
　“爆弾発言”でしょう？　普通にいつもどおり起きて普通にいつもどおり朝食をとっていたら、満面の笑顔での「引っ越すことにしたの」発言。誰だって驚くわ。しかも何が「と、いうわけ」なんだか。前に何の会話があったわけでもなく、開口一番にそれなのだから、勘弁して欲しい。
「…どこに？」
　若干痛む頭を抑えながら訊けば、こっちの気など全く考えていない様子の母さんは、やっぱりにこにこと笑いながら、
「えっとねー。わかりやすく言えば、美緒の家の斜め前？」
　へえー。美緒さん家の、斜め前、ね。じゃあ結構近いのね、ここからも、学校からも。なら転校はしなくて済みそう。学校への距離も縮まるし…………じゃ、なくて。
「……………え、今なんて…？」
　聞き間違え？
「だからー、美緒の家の、」
　じゃなかった。
「いや、それはもう聞いたから良い」
「ちょっと、私はイオリが訊いたから答えたのに…」
　それはごめんね母さん。でも私も思わず訊き返したくなっちゃったの。聞こえなかったからじゃなくて、ね。
「そういうわけだから、利央ちゃんにも伝えといてね？」
「…私が？」
「ええ、貴女が」
　………。何が「そういうわけ」なんだか。さっきのといい、全く脈絡ない気がする。
「…………」
　まあ、良いけど。
「わかった。伝えとくわ」
　いろいろと伏せて。
　…その方が、面白そうだしね。
　にこにこ笑う実の娘が、その返事の裏で何を考えていたのかなんて、きっと母さんでもわからないだろう。…ああ、でももしかしたら検討くらいは付いているのかもしれない。
　だってそんなの、美緒さんたちの口から言えば済む話だもの。それをあえて私に頼むのだから…。
　やっぱりカエルの子はカエルってことなのかしらね？

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