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そうしていつか見上げた空が、青く澄んでいると願って。
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 しかしまあ、これでも本業は学生。その仕事内容は、授業を確り受けることに、勉強をすること、だ。たとえその理想と現実がどんなに掛け離れていようとも。
 ………まあ要するに、午後の授業はどっちもハイペースで進む教科だったため、そんな呑気に話をしている暇などなかったということだ。
 そのまま放課後に突入。さようなら、という挨拶の後、クラスメートたちが一斉に動き出す。同じように動き出そうとした彼を慌てて呼び止めた。
「…何?」
 いつものように、淡々とした口調。それでも最初のようにスルーされなかっただけマシだろう。
「今日、今から何か用事ある?」
 手短に、用件だけ言うことにした。相手は案の定、眉を寄せている。まるで、わけがわからない、とでも言いたげだ。むしろ、言いたいのはこっちの方だ。ほんと、わけがわからない。なんであたしこんなことしてんだ。なんでかと言うと、それはつまるところ梶木鎮という名の馬鹿(副部長)(あれ、これってかっこの外の中逆か?)が例によって妙なことを考え付いてしまった所為なんだけど。
 加嶋冬夜はまだ考えているようで(もしかしたら頭の中にあるスケジュール帳で放課後に何かあったのか調べてくれているのかもしれない)、会話が途切れた。急かしてもしょうがないので、黙って待つことにする。
「ない」
 少し経ってから、顔を上げ、一言。
「そう」
 返して、ホッと胸を撫で下ろす。それから、
「それじゃ悪いんだけど、ちょっとこっちの用事付き合ってくれる?」
 文句なら全部、発案者であるうちの馬鹿副部長へどうぞ。
「………は?」
 付け足された言葉に、加嶋冬夜はまたわけがわからないと言いたげな顔をした。うん、なんていうか、ごめん。


「なるほどな…」
 あたしとイオリからの説明を受けた加嶋冬夜は納得したような声を上げた。
 今ので理解してしまったのならすごいものだと、あたしは何故か感心してしまう。自分ならわからない。それこそ確実に。わかりたくない、と置き換えた方が良いかもしれない。
 そんな考えが顔に出ていたののかはわからないが、彼はそれに一言付け足した。
「ほら、俺の姉貴、アレだから」
「ああ…」
 納得した。してしまった。さっき彼が納得してしまった理由も理解してしまった。
 あたしはうんうんと一人頷く。それから、
「で、」
顔を後方へ向けた。
「どうしてイオリは後ろを歩いてるのよ」
 隣に並んで歩けば良いのに。そんな意味合いの言葉に、イオリはきょとんとした顔をして、
「だって、三人並んでたら他の人の邪魔でしょ?」
「そう…?」
 この学校は校舎自体が(無駄に)広いこともあって、廊下の幅もそれなりに広く取ってある。少なくとも、あたしたちの中学の二倍はありそうだ。別に三人並んでも、普通に誰かとすれ違えるくらいはある。
 別に、大丈夫だと思うんだけど。そうあたしが口にする前に、それは彼女の声によって遮られた。
「それに」
 意地の悪そうな笑みとともに。
「邪魔でしょ、私。お二人さんの」
「「は?」」
 あたしと加嶋冬夜の間の抜けた声が揃った。自然、お互い顔を見合わせる。わけがわからない、という顔をしている。少なくともあたしにはそう見えたし、自分がそれとひどく似た表情を浮かべているという確信もある。
 彼女の方へ顔を戻す。鞄を持っていない左手を顔の前で左右に振りながら言う。
「や、わけわかんないから」
 本当に、今日はわけのわからないことだらけだ。…しかし、わからないことが不幸なのかと問われると、そうでもない気がする。わかってしまわない方が良いような、そんな気もする。そんなことを考えながら眉を寄せて言ってみせれば、イオリは「違うの?」と小首を傾げてみせる。さらりと揺れた綺麗な金の髪が羨ましい……じゃ、なくて。
「どうしてそういう話になる―――」
「利央さん、イオリさん!」
 のよ、と言い切る前に、妨害。別にそれでも良かったから、快く受け入れる。いい感じでうやむやになりそうだ。
 ぱたぱたとこちらに駆け寄ってくる少女。右耳の少し下あたりで一つに纏められた淡い桃色の髪がその度に上下に揺れる。病的なまでに白い肌に、優しげに細められたエメラルドグリーンの瞳。写真部の一年、柚川真奈ちゃんだ。
「こんにちは、真奈ちゃん」
 イオリが挨拶して、あたしもその後に続いた。それに、同じように挨拶が返された。
「あの、今日ってミーティングあるんですよね」
「ええ、みたいね」
 あれをミーティングと言って良いかどうかは別として。集まれ、という指示はある。決して強制ではないが、結局皆揃うことになるだろう。
 つまり、この目の前の少女も、もちろんその例外ではない。
「それじゃあ、資料室まで一緒に行っても良いですか?………あ、あの、でもお邪魔だったらあたし、えと」
 途中からおろおろとし始めた真奈ちゃん。どうしたんだろうと考え、すぐに答えに行き着く。
 つまり、彼女にとっては見知らぬこの男子生徒が一緒だったから、遠慮してのことなのだろう。でも『お邪魔』って。なんでまた、イオリにしたって、彼女にしたって、そういう言い回しをするかなあ、と思う。まあ、真奈ちゃんの場合は、イオリのような悪意があってしているわけではないので、まだ許せるけど。
「私は良いけど」
「あたしも良いよ。行くとこは同じだしね、この人も。だから問題無し」
 言った後で、一応訊いておいた方が良いかと思い、顔を横に向け、
「良いでしょ?」
「訊く前に答えたろ」
「ま、ね。で、どっち?」
「別に。構わない」
「だそうよ」
 真奈ちゃんに向き直る。はあ…、とどこか呆気に取られたような彼女の様子に疑問を覚えないでもなかったけれど、まあ放っておく。
 イオリがこそっと耳打ちした。
「仲良いわよねぇ」
「え? あ、はい。そうですね」
 もちろん、あたしの耳にそれが届くはずもない。なんて言っているんだろう。考えながら、廊下で突っ立っているよりまず先に資料室に向かわなくてはとまた歩き始めた。
 逆井先輩がある程度はストッパーになってくれるだろうが、なにせ相手はあの二人―――梶木先輩と夏夜先生なのだ。正直、こんなところで油を売っている暇はない。そうこうしている間にも、資料室がまた悲惨な状態に逆戻りする道を一歩一歩確かに歩んでしまっている可能性だってあるのだ。というか、高いのだ、それが。悲しいことに。
 ぐちゃぐちゃに散乱するモノの山。
 想像しただけで眩暈がする。

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登場人物

++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
 青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。

++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
 利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。

++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
 写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。

++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
 夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。

プロフィール
HN:
岩月クロ
HP:
性別:
女性
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