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―――加嶋 冬夜
黒板に鈴木先生――うちのクラスの担任で、名前は朔という。歳はせいぜい三十代半ば程度で、少々声が大きいというところが欠点だが、基本的には良い先生だ――はそう大きく書いてから、うーん、と顎に手を当て考え込み、隣に『カシマ トウヤ』とルビを振った。
周りがざわめく。苗字と名前からある人物に行き着いたのだろう。
しかし当の本人は昨日あたしが見た表情と全く同じ―――つまり、仏頂面とも無表情ともいえるそんな表情で教壇に立っていて、ざわつくクラスメート達を前にしても眉一つ動かさない。
周りが落ち着いてきた頃を見計らって、鈴木先生が自己紹介をするようにと加嶋冬夜(苗字で呼ぶにも名前で呼ぶにも妙な感じがしたので、フルネームになった)に勧めた。
その時、一瞬だが、その表情が崩れた。…どちらかというと、悪い方向に。まるで、面倒だなあ、というかのような、ソレに。本当に一瞬で、プラスそこまであからさまなものではなかったから、気付いた者は、少なかっただろうが。…ツルは気付きそうもないな。イオリは気付いてそうだ。興味無いからって、すぐに忘れるんだろうけど。
加嶋冬夜は渋々といった様子で、口を開いた。皆が固唾を呑んでそれを見守っている(なんでだろう)。
「加嶋冬夜です。よろしくお願いします」
丁寧に軽く頭を下げて、閉口。…終了らしい。しんとなる教室。リアクションに困っているらしい。あたしは別に…最初からどうでもよかったから、ただ頬杖を突いて教室内を見渡している。といっても、顔をわざわざ動かしているのではない。あたしの席は所謂『特等席』とも呼ばれる、窓際から二番目の列の、一番後ろ。隣が空席だから、実質端っこということになる。
そこまで考え、ふと気付く。空席? ちょっと待て、空席、って。
慌てて周りを――正確には、机の位置を確認した。隣が空いているのは、あたしと、それから中央に一つ。でもこれはたまたま今日休んでるってだけだから、つまり加嶋冬夜の席になるのは、
(嘘でしょ…)
がっくり、と机に突っ伏した。最悪だ。なんかおかしいと思ったんだ。隣にいきなり机が出現したから。いやその時点で気付けって話なんだけれど。
別にあの人が嫌いとかそういうわけじゃない―――嫌い云々というよりまず、あの人とは喋ったこともないのだから。
それにしたってなんだ。これは何かの、もしくは誰かの陰謀なわけか?
席替えは公平なくじ引きだったわけだから、そんなこと有り得ないのだが、しかしどうしてもそう思えてしまってならない。
「…………?」
不意に視線を感じて、顔を上げた。そこに在るほとんどの視線がこっちに集まっている。なんだろ、と考え、
「わかったか? お前の席は、あそこで今生き返った女子の隣だ」
途端誰か堪え切れなくなったように笑い出し、つられるようにそれはクラス中に広がっていった。顔が火照るのを自覚する。何か言おうとして、でもそれはきっと火に油を注ぐようなものだと理解していて、あたしはぱくぱくと口を動かすだけに終わった。
そうこうしている間に、加嶋冬夜はこちらに移動し、自分の机となったソレの椅子を片手で引いていた。
どさ、と乱暴に鞄を机の横に置く(むしろあれは『落とす』か『放り投げる』だ)と、腰を下ろす。
一応挨拶くらいはするべきか。
「えっと……あたしは近江利央っての。よろしく」
返事はない。ただ一瞬視線がこっちを向いただけだ。…なんか、空しいぞ。はあ、と息を吐いてから、少し彼の横顔を見る。顔に少しばかり「夏夜先生と似てるなあ」と思わせるものはあるにしたって(たとえば目の形とか)、性格はどうやら正反対のようだった。―――いや別に夏夜先生が男勝りだから、逆に彼が女の子みたい~とか言ってるわけじゃない。そういうわけじゃなくて。
ただ、
(無口なの、か…?)
というより、これは、『無口』なんじゃなくて、
同属?
つまり、面倒くさがり屋。…あれ、これは夏夜先生と同じか。
何はともあれ、これだけは断然できた。
―――先が思いやられる。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。