Ａｃｔ.１－１

　あたしの住む街は《水の都》なんて呼ばれている。聞くだけなら「なんだかキレイ」って感じなんだろうけど、実際は違う。少なくとも、あたしにとっては。
　《水の都》は、雨が降り止まない、という意味だから。
　…あたしは、青い空というものを実際に見たことがない。一度も。たったの一度も。
　見上げてみても見えるのは、青い空でも、白い雲でもない。
　太陽が出ている間はいつも薄黒い雲が空を覆って、雨足は弱まることはあっても、止むことは無い。夜は雨が止んで、星はキレイに黒い空を照らしているけれど、決して青の色彩がそこに浮かぶことはない。
　ここはまるで、あたしにとっての地獄のようなところだった。
　最初から、そう思っていたわけではないけれど。今ではそうとしか思えない。

　いつから、こんな風に考え始めたのか。

　そんなこと忘れた、なんて言わない。言えない。
　あれは本当に、あたしの転機だったから。
　衝撃的な出来事だった。あの時の、なんと表現すれば良いのか分からない胸の高鳴りと、ここにいる限り自分の目でそれを見ることは出来ないと理解した時の失望は、きっと一生忘れないだろう。
　青い空なんて物語の中に出てくるものだと信じて疑わず、この雨が降り続けている街が普通であると、そう思っていたあの頃のあたし。
　そんなあたしを一瞬にして捕らえて、今もなお放そうとしない、

　それは、そう――――。

 MENU　　NEXT→