忍者ブログ
そうしていつか見上げた空が、青く澄んでいると願って。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 そういうもんなのはわかっているのだけれど、改めて考えると、それはどうにも寂しいことだった。別れには納得するにしても(そもそもあたしが口を挟めることじゃない)、どう送り出せば良いのか、なんて言葉を掛ければ良いのか、そこらへんが曖昧で、結局頭を抱える破目になっていた。
 顔を合わせて、何の話をすればいいのかも、もうわからない。
 だって今考えてみても、あの時の…引っ越すのだと告げられた時の自分の態度は明らかにおかしかっただろう。
 それからの何日かだって、そう。
 自覚してから、ますますわからなくなっている。
 どんな顔をすれば良いのか。いや、どんな顔をしたら良いのか、というか今自分がどんな顔をしているのか、現在進行形で、困っている。
 対面するイオリは至って普通だ。弁当と口を行き来する箸の動きだって、至って普通だ。
 対するあたしはどこかぎこちない。
「………利央ちゃん、どうかしたの?」
 ツルが小首を傾げ、あたしに尋ねる。
「え?! い、いや、どうもしてない、けど!?」
 いやいや明らかにおかしいだろう。とさすがにこれは自分でツッコミを入れてみる。口には出さないけど。
「…………どうもしてないようには見えないけどなあ」
 そのかわり、ツルが口に出してくれた。
「そ、そう?」
「うん。なんか………なんて言ったら良いかわかんないけど、なんか……こう」
 もにゃもにゃ~、と手でその『なんか』を表現するツル。それが何なのかはわからないけれど、うん、確かにそんな感じだった。
 その表現があまりにも可愛らしくて、悩んでいることも忘れてプッと噴出せば、ツルもまたパアッとその表情を明るくさせた。
「やった! 利央ちゃんが笑った!」
「………なにその、まるで『クラ●が立った!』みたいな驚き様」
「あ、いいねその例え。うん、あたしの心境ってきっとそんな感じだあ~」
 それは………言い出しておいてなんだが、なんかちょっと嫌だ。いや別に某少女のことが嫌いであるとかそういうわけではなく、ただなんとなく、嫌だ。
「でも……そんなに笑ってなかった? あたし」
 先程のツルの言葉を思い出しそう訊ねれば、間を空けずに「うん」と首肯付きで肯定された。なんだか複雑。
「ていうか、なんていうか…固かった、かな。雰囲気が。………もしかして、何かヤなことでもあったの?」
 心配そうに顔を覗きこんでくるツルの目が、一瞬イオリに向いた。ああ、たぶん気付いているのだろう。その原因に。理由はわからなくても、それくらいなら簡単に想像が付く。それほどにわかり易いということか、と思うとなんだか深くため息を吐きたくなったのだが、事実なのでしょうがない。
「あー…うん。いや、ううん。別に嫌、なことってわけじゃ………」
 自然、歯切れも悪くなる。
 だって、嫌なことじゃ、ないはずだ。
 その、はずだ。
 イオリは前々から、一軒家に住んでいるあたしを見ては、はっきり言うことこそしなかったが、少しばかり羨ましげな表情を浮かべていた。だからこれは彼女にとって、良いこと、なはずで。
 それをあたしが悪いことだ嫌なことだ、なんて言っていいはずがない。というか、あたしが、言いたくないのだ。
 それを言ってしまえば、きっとイオリは嫌な想いをするだろう。
 自分の一番近くにいるのが、あるいは家族よりも彼女であると、あたしは思っている。自意識過剰なわけではなく、きっとイオリにとってもそうだ。
 そんな人が、嬉しいことを一緒に嬉しいと思えない、むしろ嫌だ、なんて態度を取ったらきっと悲しい…――――って、もう取ってるじゃないか。馬鹿か、あたしは。
 ………そもそもあたしは、それが『嫌』なのか?
 ふと、考える。
 確かに、『好き』とはまた全くの別物のように感じる。けれど…『嫌』? これはその感情なの?
 混乱していることは、認める。
 でも、それはきっと答えがぐしゃぐしゃで、全く纏められなくて、だからだと思う。ということはつまり、答え=嫌というものがまだ確り当てはまっているわけではないということで。
 だからそれが答えと前提として考えるのは如何なものかと自分に問い質し、
(でも、第三者から見れば、それって結局同じように見えてるんじゃないの…?)
 ―――沈んだ。
 現に冬夜もツルも……でもあれは『何か嫌なことが~』ではなく『何かあったのか~』の類か。なら違うのか? どうなのだろう? ん? ツルは二回目に前者も訊いたか? どうだっけ。忘れた。
「利央ちゃん~?」
「………あ、うん」
「うん、じゃなくて」
 ツルが苦笑している。
 どうやらまた例によって自分の考えに没頭してしまったらしい。最近気付いたのだが、どうやら自分は考え始めると周りが見えなくなってしまうらしい。悪い癖だという自覚はあるが、これは気を付ければ直る類のものなのかが怪しい。なんて、それはただの言い訳に過ぎないかもしれない。
「最近ボーっとしてること多いよね…疲れてるの? 大丈夫?」
「大丈夫だいじょうぶ! ただちょっと…えーっと……」
 言葉の続きが思い浮かばないで視線を泳がせていると、白い手がにゅっと伸びてきて、あたしの額に当てられた。
「熱は無さそうね」
 クスクスと、何故か笑いを含んだイオリの声。
 一体全体、何がそんなに面白いのか。今回ばっかりはわけがわからない。かといって、いつものことだからなのか、怒りも湧かない。そんな自分が不思議だ。
 そうして普通に接してくれているイオリに対して、安堵と、彼女に対しての感謝があることを自覚しているからだろうか。
 すう、と手が離れていく。
「本当に、なんだってそんなに普通なんだか」
 ―――これじゃあまるで、彼女にとってはこれがどうでも良いことみたいじゃないか。
 浮かんでしまったそんな考えを振り切るように頭を軽く振った。
 幸運なことに、あたしの呟きは、誰の耳にも届くことがなかった。

←BACK   MENU  NEXT→  


++アトガキ++
 ぐるぐるしてます、利央さん。鬱陶しいくらいのぐるぐるっぷり…いやー、悩んでますねぇ~。(書いてるヤツが何言うか
 この話は始終この調子で進んでいきます。(ウワァ

 

PR
<< 前のページ HOME 次のページ >>
[1]  [2]  [3]  [4]  [5]  [6]  [7]  [8]  [9
登場人物

++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
 青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。

++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
 利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。

++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
 写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。

++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
 夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。

プロフィール
HN:
岩月クロ
HP:
性別:
女性
ブログ内検索

Copyight© ∴空を見上げて All Rights Reserved.
Designed by who7s. Photo by *05 free photo.
忍者ブログ [PR]