忍者ブログ
そうしていつか見上げた空が、青く澄んでいると願って。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 確かに、思っていたよりずっと良かった。
 というかこの二人にしては随分控えめだ。
 場所は中庭。いつだったか、冬夜と話した場所。その時の自分を思い出し、ここから一気に逃げ出したい気分に駆られたけれど、そんなことをしたら余計に恥ずかしい。ぐっと堪えた。
 とにかく、その場所には今、四脚の丸机(学校にはなかなか無い型だが、一体どこから調達してきたのだろう)と、その上に所狭しと置かれているペットボトル(色とりどり、種類様々なジュース入り!…本当にどこから調達してきたんだろう…?)、紙コップ、スナック菓子と、それとは別の手作りお菓子。…たぶん、琴架先輩あたりが作ってきたのだろうと思われる。
「何。なんかのパーティーでもやる気なの、これ?」
「さあ。どうなんでしょうね。とりあえず騒ぐ気は満々みたいだけど」
 イオリの言葉に、梶木先輩が大声で返す。
「いや、騒がないぞ。騒いだらバレるからな!」
 だったらせめて声を静めるとか、したらどうなんだろう。ていうかなんでこの人こんなに声大きいんだろう。うちの担任の鈴木先生も声が大きいが、それに匹敵するくらいだ。親から貰った『鎮』という名前の意味を一度辞書で引いてみた方が良いんじゃなかろうか。
 じゃなくて。
「バレる…?」
 誰に、何が?
 不思議そうな顔をした面々に、梶木先輩が胸を張る。その時点で何か嫌な感じが漂ってる。逆井先輩は既に予測がついているのだろう、青筋が浮かんでいる。…いや、逆井先輩じゃなくても、何を言い出すかは大体予測がつくけど。でももしかしたら万が一違うって可能性がないこともないかもしれないし。(非常に曖昧)
「いやあ、これ教師に無断でやってるからさぁ」
「教師…って、そこにいるッスよ、ね?」
 和羽くんがちょっと引き攣り気味の笑みを浮かべながら、ついと夏夜先生を指差す。…そうだよ。この人よく考えてみたら教師だった。
「あ、そっか。じゃ、一応了承は取ってあるのか。よし、じゃあ騒いでいいな!」
 …忘れてたんですか、夏夜先生=教師だって。ていうか梶木先輩にまでそう言われる夏夜先生ってどうなんだろうか。
 たぶん、その場にいたほとんどの人がそんなことを考えていたと思う。冬夜に至ってはなんか遠い目してるし。気持ちはわかるけどね。
「って、待て馬鹿、お前、」
「え。あれ。なあキョウ、俺もう名前がソレなの? 苗字とか名前とかの前に付くんじゃなくて、直でソレなんだ?」
「………。先生、これはちゃんと許可を取ってるんですか?」
「スルーか! ある意味一番酷い対応だ!」
 喚く梶木先輩を存在から無視して、逆井先輩が夏夜先生に訊ねる。さすがにここまでくると少し可哀相。かもしれない。…だからって慰める気は毛頭ないけどね。
 で、訊かれた夏夜先生はといえば、
「あー…」
 …………なんでそこで詰まっちゃうかなこの人!?
 一同(馬鹿を除く)全員が、固まった。そんな中で、へらっと笑って見せて、
「いやまあ、バレなきゃ良いんだし。バレなきゃ」
「良くないと思います」
「っていうか、教師が言う台詞じゃないですよねソレ!?」
「さぁって、んじゃまあ、騒ぐか! せっかくお天道様が出てるいーい天気だしな! こんな日は騒ぐに限る! ほら全員好きなの注げ! 乾杯するぞー!」
 全っ然、聞いてない。
 っていうか、バレなきゃ…って。その音量じゃバレるだろうと思われます。この人といい、梶木先輩といい、もう少し小さい声で喋るってことを学習した方が良いよ。――ってそうじゃないよ、あたし。問題は大声出さないとかじゃなくて、その前。これを実行してるこの状況だから。ああだめだ、なんか感化されてきてしまっている気がする…。うわあ絶対嫌だ。この人たちの仲間入りなんて、死んでも嫌だ本当に。
 とか思いつつ、確りジュースを注いじゃってるあたしは、本当にもうだめなのかもしれない。まったくの無意識の行動だった。それを手に持ちながら、どうして注いでしまったのだろうかと、かなり真剣に考えた。きっとこの人たちに影響を受けてるっていう理由以外に、何かあるはずだ。何か…あってください。
 いつの間にか復活した梶木先輩(いつ見ても回復が早い。馬鹿だからだろうか)と夏夜先生が、「かんぱ~い!」とコップを掲げた。何故か嬉しそうだ。
 他の面々は一度顔を見合わせると、控えめ気味にそれを持ち上げ、「乾杯」とぼそぼそ呟くように言う。
「なんだよ。もっと元気よくやれよな~」
「お前が無駄にハイテンションなんだろうが。それより馬鹿がうつるから近くに寄るな」
「……最近思うんだけどさ、キョウってどんどん俺に対して冷たくなってない?」
「ほう。気付いていたか」
「当たり前だろ! なんてったって親友だからな!」
 親友だったらまず、その台詞がかなりの嫌味だということに気付いてください。むしろ親友でなくても気付いてください。恥ずかしいですから。
 と、口には出さずに視線だけで訴えてみた。もちろん梶木先輩は気付かない。仮にこちらに目を向けたとしても、あの人のことだからおそらくは、半眼でこっちを見てるな~、くらいの感想しか持たないだろう。
「親友? お前と俺が?」
 逆井先輩の背後にブリザードが見えた。もちろん錯覚だ。錯覚じゃないとおかしい。でも本当に見えた気がした。というか現在進行形で見えてる。フザケンナコノヤロウ、みたいな感じで梶木先輩を見下ろしてる。身長的には同じはずなのに、確かにそれは“見下ろしている”というべき光景だった。見下(みくだ)している、と言い直した方がより正確か。
 さすがの梶木先輩もこれには耐えられなかったらしい。(これには、というより、この人はいつだって逆井先輩には弱い気がするが)
「うわーん!琴架ーっ!」
 そこで彼女に泣きつくか。
「どうしたんですか、鎮くん」
 オレンジジュースの入ったコップを傾けながら、ゆっくりと首を傾げてみせる琴架先輩。梶木先輩が泣いてる(嘘だけど)ことは、全く気にしていない。気付いていないのかもしれない。むしろそっち希望で。だってもしこれがただ気にしてないってだけだったら、怖いよ!?
「キョウがイジメル~」
 情けない声を上げる梶木先輩に、え、と琴架先輩が目を丸くさせた。それからむう、と眉を寄せて、しばらく考え込んだ後、どことなく使命感に駆られた表情で逆井先輩の方を向く。
「叶一君! 鎮君いじめちゃめっ、ですよ!」
 ……………え~と。
 どういう対応したら良いんだろうね、これは。
 腰に手を当て、眉を吊り上げて、必死に叱ってます、みたいな感じを醸してはいるけど、如何せん琴架先輩のやること。つまり、えーと―――正直言って、全然これっぽっちも怖くない。
 でも何故だか、無意味に宥めて謝りなくなる雰囲気はある。ただ、繰り返し言うけど、決してそれは恐怖ではない。なんていうか…なんて言えば良いのかなあ。わかんないけど。
 もし対象があたしだったら、即刻謝っていただろう。たとえその“いじめていた”という相手が梶木先輩だったとしても。
「……………別にいじめていたわけではない」
 梶木先輩が、いつもよりも若干小さな声で弁解する。…や、“弁解”って言うのもおかしいか。別に言い訳をしているわけではないのだし。ちょっとばつが悪そうだけど、それは別に「ああアイツには悪いことをしたなあ」「ちょっと言い過ぎたなあ」とかそういう意図があったのものじゃない。それはわかる。わかってしまう。ただ単に、相手が琴架先輩だから悪い気がしただけ。その一言に尽きる。
 と、琴架先輩の後ろからひょっこりと顔を出した梶木先輩(…情けない)が、片手を口元にあて、わざとらしく嘆いた。
「う、嘘だ! 俺のお菓子奪ったクセに!」
 って、ちょっと待て。違うだろう。嘘八百もいいところだ。第一、お菓子の袋はまだ開封すらしていない。少しテーブルの上を見ればわかることだ。
「え、そうなんですか? それはいけませんよ、叶一君! 人の物は盗んじゃだめです!」
 ………わかること、のはずだけどなあ。うーん、さすがは琴架先輩。ますます使命感に燃えている。
 ひく、と逆井先輩の頬が引き攣った。当然だ。無理もない。完璧濡れ衣着せられたんだから。
「…いいか、枝折。よく机の上を見ろ。一つでも開いた袋があるか?」
 なんとか怒りを押し殺したような声は、でもやっぱり低い。それにも全く動じない琴架先輩は、大物なのかもしれない。素直に机の上に目を向け、あら、と首を傾げる。どうやらそれがどう考えても菓子を盗られるということが起こり得ない情景であるということに、気が付いたらしかった。
「どういうことか、わかるな?」
 さすがに、ここまでくれば。
 その言葉には、そんな意味も込められていた。の、だが――
「………どういうことでしょう?」
 わかってなかった。ここまできても。

←BACK   MENU  NEXT→
  

PR
この記事にコメントする
お名前(Name):
タイトル(Title):
文字色(Color):
メールアドレス(E-Mail):
URL:
コメント(Comment):
パスワード(Password):   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
<< 苦労人に20の質問 HOME Act.6-6 >>
[63]  [64]  [65]  [66]  [67]  [68]  [69]  [70]  [71]  [72]  [73
登場人物

++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
 青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。

++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
 利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。

++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
 写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。

++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
 夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。

プロフィール
HN:
岩月クロ
HP:
性別:
女性
ブログ内検索

Copyight© ∴空を見上げて All Rights Reserved.
Designed by who7s. Photo by *05 free photo.
忍者ブログ [PR]