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そうしていつか見上げた空が、青く澄んでいると願って。
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「…ところで、トウヤって、冬の夜って書くんですか?」
「よくわかったね、ってわかりやすいと言えばわかりやすいか」
 なにしろ夏に冬だからね。夏夜先生はそう言って苦笑した。
「まあそんなわけでよろしく頼むよ」
「頼まれても困るんですけど。あたしにどうしろと?」
「どうしろと、って…」
 嫌だよ面倒くさいし大体なんであたしが。そんな感じの想いを込めて放った言葉。…それは一瞬にして後悔へと変わった。言わなければ良かった。馬鹿じゃないかあたし。
 目の前にはしてやったという感じの夏夜先生の顔。何を言われるのかは予想できないが、とりあえず自分にとって良い方向に進んでいるわけではないということぐらいは容易に想像できた。
「ぜ、前言撤回です。あたしどうもしませんから。さっきのはいわゆる、言葉の綾とかいうやつで決してそう、決してですよ、何かしようと思って言ったわけじゃなくてですね、だから、」
「いや実はさ、学校案内とかいうのがあってな、それがまた面倒…いや、面倒じゃなくって、そう、あたしがするよりもクラスのヤツにやってもらった方が早く馴染めるだろ? だから、」
 お互い相手の喋っていることを理解して、理解した上で自分の口を閉じることはしなかった。絶対、止めたら、負けだ。そう思って息継ぎを短く、最後に今日一番じゃないかというくらいの声であたしは叫ぶように言った。
「しませんからねそんなこと!」
 一テンポ遅れて、息をゆっくりと吸っていた夏夜先生が、にっこり笑って、
「いや大丈夫ダイジョウブ。大丈夫だから大人しくここは頼まれてよ。ほら、放課後部活の時間で良いからさ。どうせ校内うろうろするでしょ」
 対するあたしはまだ息が整っていなくて、
「あ、あたしは別に、うろうろ、とか」
「それにほら、うち部員少ないだろ。だからこれを機にアイツを写真部に引き込んでやれって! な?」
「そんなの先生がすれば、」
「よし決定はい決定。そんなわけでよろしくないやホント助かるよ明日はちょうど資料室の掃除を久しぶりにしなくちゃと思ってたんだうん」
 嘘を吐け、嘘を。掃除なんてする気ないくせに。
 いや、じゃなくて、こんなことに突っ込んでいる場合じゃない。言い負けて堪るか。
 そこでなんとか息を整えることに成功したあたしは口を開いて、
「あ、これ顧問直々の命令だから。強制ね。拒否権ないから」
「明らかにそれ職権乱用ですよね!? ていうかそんな職権自体無いと思うんですけど!?」
「それとこれ、色々と書いてあるから、目ぇ通しといてね」
「だーかーらあっ」
「なに、部員欲しくないの?」
「く…っ」
 ―――――言い負けた。
 後で思い返せば、それとこれとは関係がないし、大体姉弟なんだったら自分が言うより姉である夏夜先生が言った方が良いんじゃないかとか、色々と言い返す言葉が見つかるのだけれど、その時はそんなこと全く思い当たらなかった。
 なんていうか………悔しい。

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登場人物

++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
 青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。

++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
 利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。

++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
 写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。

++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
 夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。

プロフィール
HN:
岩月クロ
HP:
性別:
女性
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