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「アタシは加嶋夏夜。夏の夜って書いて、『カヨ』って読む。よろしく」
「え、あ…よ、よろしくお願いします」
つられて軽く会釈してから、傍と気付く。
加嶋…夏夜? じゃあ、この人が、写真部の顧問?
「…あの」
イオリが右手を上げた。
「私たち、写真部の見学をしたいんですけど」
そこで一度、イオリはあたしの方をちろりと見た。あたしは慌てて、こくこくと頷く。自分もそうだ、と。そんな意味を込めて。
「えっと、えっと、配られたプリント見ても場所がどこだか分からなくて、それで…」
「どこに行けば見学することが出来るんでしょうか?」
止まったあたしの言葉を、イオリが引き継いだ。さすがは幼馴染。息もぴったりだ。…主にイオリがあたしに合わせているんだけど。
加嶋先生――夏夜先生で良いか――は、あー、と片手で乱暴に頭を掻いてみせる。
「うちはほら、そこに書いてあるとおり、自由行動が主なんだ。だから部員がどこで動いてるかは、こっち、把握してないんだな」
いやに男勝りな喋り方だ。…と、そこは問題ではなく。把握してない、って、良いのか、それで…?
思わず顔を見合わせる。ただ困惑しているのはあたしだけのようで、イオリはどこか楽しげだ。なんでだ。
「つまり、部活は個人の意思で自由に動けるってことなんでしょうか?」
「そうだね。自分の好きな所に行って、好きなもの撮って、って。そんな感じ。ただ、そうそう遠くまで行かれても困るけど。ほら、一応顧問としての責任があるしね」
じゃあ、活動範囲自由とか書くなよ。とかいう突っ込みはひとまず心の中にしまっておいて、あたしはイオリと夏夜先生との間で繰り広げられる会話に耳を傾けた。下手に口を挟むより、大人しく話を聞いた方が自分の知りたいことが知れると思ったからだ。
「ミーティングとかは?」
「滅多に無いね。大会…コンテストって言った方が分かり易いかな? そういうのがある時期あたりでは、さすがに招集をかけるけど」
「そのコンテストっていうのは、年に何回程度あるんでしょうか?」
「さあね…どうだったか。まあ、大体3,4回だろ」
適当だなあ…。イオリもそう思ったのか、あたしと目が合った時に、軽く肩を竦めて見せた。
「んー…」
それに気付いたのだろうか、夏夜先生が軽く首を傾げ、
「ま、それで今まで困ったこともないしね。――ああ、それで、一応そのミーティングで使ってる部屋…資料室なんだけど、見る? 今は使ってないけど」
「え? えーと」
どうしよっか。
そういう意味で、イオリの方を見る。
「行くだけ行ってみる? どっちにしろ、行く予定だったんだし」
「ん~、そだね。それじゃあ…」
夏夜先生に向き直る。
「りょーかい」
あたしの目が、にい、とどこか少年を思わせるような笑みを浮かべた女性を映した。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。