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それで良い? と尋ねると、問題ない、という答えが返ってきた。その表情を見て、こっちに気を使っているようではなかったので、安堵。
「でも、良かったの? イオリは部活、全然見て回ってないみたいだけど」
「あら、見て回ってるじゃない。今こうして」
くす、とおかしそうに笑うイオリ。
「でも、運動部は見てないでしょ?」
「誰が運動部に入るって言ったのよ」
「それは…」
確かに言ってない。言ってないけど、
「イオリは文化部に入るつもりなの?」
「私が文化部に入っちゃダメ?」
「そんなことないけど…」
つい中学時代が運動部所属だったために、高校もそっちに入るものだと思い込んでいた。…別に違うなら違うで良いのだけど。あたしが口を挟むことじゃないしね。
イオリは、不意にあたしから顔を逸らして、降り続く雨の方を向いた。目を細める。
「実際、どっちでも良いのよね。私の肌に合ってれば」
「…そっか」
確かに彼女なら、どちらでもそつなくこなしそうだ。いつもなら、それが羨ましくあり、また憎らしく感じたりするのだけれど、この場合はそのどちらでもなく、ただ、その事実を認めただけだ。
「それにしても…」
イオリが頬に手を当てて、首を傾げた。
「ほんと、なんて読むのかしらね、これ。加嶋…」
そこまで言って、やはり言葉が途切れる。あたしも黙って、またその漢字を頭に思い浮かべた。
「カヨ、だよ」
「えっ?」
唐突に聞こえた声に、あたしは慌てて振り返った。それに対し、イオリはゆっくりと、落ち着いた動作で、あたしと同じ方向を、あたしとイオリが考えても出なかったその答えを口にしたその人物の方を、見る。
「ちょっと、なんでそんなに落ち着いてるのよ」
小声でイオリを小突けば、
「驚いたわよ。ただ利央ほど表にそれが出なかっただけ」
そんな答えが返ってきて、それに一応納得してから、改めて相手の女性――結構、いやかなり若い――をまじまじと見つめた。その行動は失礼にあたるのだろうが、それでもそういう目で見てしまう自分を止めることは出来なかった。
見たことのない人だ。おそらくは、この学校の先生なのだろう。スーツをぴしっと着て、背筋をすっと伸ばしているその姿からは、普通なら、少なからず緊張を感じられると思うのだが、この女性からはそれが見受けられず、逆にリラックスさえしているようにも見えた。
「…知ってる?」
「知らない」
そんなような会話が、あたしたちの間で繰り広げられていることを知っているのかいないのか、女性はふっ、と優しく微笑んでから、軽く首を傾げると、後ろでアップにしてある栗色の髪が揺れた。
金色の瞳が、あたしを射抜いた。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。