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暗くなった部屋に、誕生日を祝う歌が響いた。美緒さんの声に、利央の声。それが終わる頃を見計らって、私はふうっと蝋燭の火を消した。
電気を点け、ケーキを五等分に切り分けたところで、玄関から「お邪魔するわよー」という声。十中八九、わが母親。…ていうか、鍵はどうしたの? もしかして、母さんが来るからという理由で、掛けてなかったのかも。なんて無用心なんだろう。別の人が入ってきたりしたらどうするつもりよ。と、限りなく低い可能性の話を頭の中でしていると、案の定というか、母さんがリビングに入ってくるなり、ケーキが乗った皿を持ち上げた。
「ちょっと麗香」
「良いじゃないの、別に」
美緒さんが咎めるようにいう。なんか、母と娘のやり取りみたいだ。本当は、母と母なんだけど。
「あ、イオリ誕生日おめでとー」
しかも、私の誕生日が『ついで』のような扱い方。…まあ気にしないから良いのだけれど。
「利幸くんも久しぶりね」
「ああ…そういえば久しぶりだね」
何ヶ月ぶりだっけ、と真剣に悩みだす利幸さんをよそに、母さんは早速ケーキをぱくついている。ゴーイング・マイ・ウェイってこういう人のこというんだわ。…私も人のこと言えないけど。でもまあ、仕方ないわよね? 遺伝だもの、これってきっと。
それにしても………、
「ワンホールケーキを五等分すると、一人が結構な量になるわよね」
ケーキが好きな人には多いなんて感じられないかもしれないけれど、嫌いな人にとったら地獄だろう。ちなみに私はどっちでもない。でもまあ食べれるから問題は無い。
「そうだね…」
問題があるのは、私の隣にいる人。まあ、別に嫌いとまではいかない…せいぜい苦手ってレベルだから、大丈夫だとは思うけど。
「早く食べないと持ってかれるわよ? 母さんに」
「別に良いよ」
はあ、と利央のため息がやけに大きく聞こえた。
はあ、とまた利央は大きくため息を吐いて、そのままどさりのベッドに倒れこんだ。
母さんたちは、何か積もる話でもある…のかは知らないが、まだ下で喋っている模様。とりあえず、私たちは避難してきた。ケーキもなくなっちゃったしね。
「ケーキ美味しかったわよ」
くすくす笑いながら言えば、
「そーですか。それは良かったです」
半分死んだような声が聞こえてきた。結局利央の分のケーキは、食べ切れなかったために母さんの手に渡った。今頃は母さんの胃にしっかり収まっていることだろう。
「う~………あ、そうだ」
がばっと利央が起き上がった。それから自分の机の引き出しを開け、中に入っていた袋を取り出し、
「はい」
「はい?」
何?
「だから……誕生日プレゼント?」
なんで疑問系? 訊かれても困るわよ、私は。
まあでも、とりあえず、
「ありがとう」
受け取る。そのまま仕舞おうとしたのだけれど、なんとなく前から利央の視線を感じて、ふと顔を見れば、なにやらジッとこちらを見ている。………もしかして、こっちの反応窺ってるのかしら?
開けろということかと思って、丁寧に袋の口を開く。と、丁寧だったのはそこまでで、そのまま袋を引っくり返して、中身を手に落とした。
「………ストラップ?」
携帯用の、だ。四葉のクローバーの形をしている。
…最初に話した時に、利央がお絵かきで描いた、ソレ。いいことがあるんだって、と笑ったソレ。
「イオリって確かクローバー好きだったよね?」
「え? まあ…そうね」
やっぱり憶えてないかと苦笑したら、それをまた別の意味に取り違えたらしい。
「き、気に入らなかったっ?」
少し慌てた様子の利央が可笑しくて、ふふっと笑ってから、そんなことはないと否定する。持ってきていた携帯に貰ったそれを付けた。
「ありがと」
「…どーいたしまして」
二人で笑い合う。
憶えていなくても良いよ。私が忘れていないから。
憶えていなくても良いよ。貴女が今の私を知っているから。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。