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「ねえ、なにしてるの?」
舌ったらずなその言葉が、始まりだった。
母さんはまだ帰ってないみたいだった。…いつものことだけど。
私は慣れた手つきで鞄から鍵を取り出して、―――そこでとりあえず、周囲を見渡す。母さんからこうしろと教わったから。クセみたいなものだ。
曰く、『警戒心を忘れるな』、らしい。
今のところこれが何かの役に立ったことはない。役に立つことが来なければ、それが一番良い。
ガチャ、という音を確認すると、鍵を抜き取り、ドアを開ける。閉めて、施錠。ふう、と息を吐いたのは、今日も何もなかった、という安心感から………なわけはなく、やっと自宅に帰れた、という開放感からくるものだ。
「…ただいま」
小さく呟いてみる。
…もちろん、返事はない。
だからその私の小さな声は、家中に響き渡る。――――私はこの瞬間がたまらなく嫌いだ。…嫌い、という言葉には語弊があるかもしれない。何故だか、不思議なことに今でもこれには慣れないのだ。寂しさと空しさに、身体が全く慣れてくれない。
ふう、と今度は別の意味を持つ息を吐き、私は家に上がる。そのまま自室に直行。鞄をドサッと乱暴にベッドに落とすと、そこで靴を揃えるのを忘れていたことに気付き、玄関まで戻る。脱ぎ捨てられた靴を発見し、気付いといて良かったな、母さんに見つかると怒鳴られるし、となんとはなしにそんなことを考えた。
振り返り、―――――――足が止まった。
静かな静かな、雨音。窓から入る、薄暗い光。同色に染まる部屋の中は、とてもサミシイ。
小さい頃は、これがたまらなく嫌で、嫌で、仕方がなかった。
一人だってことを思い知らされるから。
どれだけ泣いたって、誰もいないから。
泣いたことがバレなくて、ホッとしている自分がいることも、確かだったけれど…。
寂しい、寂しい。
そんな想いが、ずっと…誰かと一緒にいる時でも、ずっと、在った。
でも、そんな想い、誰かに伝えちゃダメだと思った。誰にも悟られちゃダメだと、思っていた。寂しくなんかないんだ、って頑なにそんなことを信じ込んで―――信じ込ませて、
馬鹿だなあ、と今では思う。
馬鹿だなあ、と今思うことが出来るのは、救いに、出会えたから。
大丈夫。ちゃんと理解してる。
大丈夫。窓の外に目を向ける。
大丈夫。自然に微笑が零れた。
大丈夫。私、今、笑えてる。
だから、大丈夫。
そこに貴女がいてくれるから。
+++アトガキ+++
イオリ視点の番外編。ここに入れたのは、話的にこの位置に入れた方が良いかなと思ったものだったからです。
半分は実話。話自体は彼女たちのものなんですけどね! ただほんとに、家帰った時に誰もいないのって、やけに寂しいんですよねぇ…。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。