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笑い止まないあたしが、本格的に壊れたのではないかと心配したのだろうか(ハッキリ言って不本意極まりない)、冬夜が本気で心配げな視線を向けてきた。
「どうした…?」
「いや、べ、別に……ハーッ、笑ったわ」
息を吐く。顔はまだニコニコ…悪い言い方をすればニマニマとなっているに違いないのだが、そんなことは今は気にならなかった。
ここ数日沈み込んでいて笑っていなかった分を、今使ってしまったような気さえする。
なんで悩んでいたのか、それすらももうわからない。
というか、なんで自分が今笑っていたのかも、よくわからない。
ただ、………そう、ホッとしたのだろう。答えが出て。当たり前、なのだとわかって。無理に笑って送り出さなくたって、別に良いんだって、なんとなく、わかって。
「うん。ありがと、冬夜」
「よくわからないが……どーいたしまして、か?」
困惑顔のまま、冬夜はまだ首を傾げていたが、ふと何かを思い出したように、
「ああ、そうだ。その様子じゃもう大丈夫そうだが、一応…………」
「おーッ、近江。お前こんなとこにいたのか!…って、ん? おお、加嶋も一緒か。なんだ、俺の出番なしか?」
ニマニマと、それこそ“人の悪い笑顔の例”として出してしまえそうな笑顔を浮かべ、梶木先輩が寄ってくる。冬夜の言葉の後半部分を掻き消しながら。
なんて言おうとしたのだろう。
……まあ、良いか。
とりあえず、今は駆け寄ってくる梶木先輩に集中。…いや別に変な意味では絶対になくて、ただあの人放っとくと変な行動に走るし、いろいろと厄介であるというだけで、………あ、隣に琴架先輩がいる。お、逆井先輩もいる。ならひとまずは安心、かな。
「ってか、どうしたんですか。三人揃って」
珍しいですね、という言葉は飲み込んだ。
ミーティングの時以外は、大抵バラバラに行動していることが多いのだ。この三人は。梶木先輩も妙なことしないし。……是非ともミーティング時にもそうして欲しいところなのだけど。
「いやあ、ほら……まあ、なあ?」
しどろもどろに答える梶木先輩。いまいち…というか、全然わけがわからない。
隣でくすくすと可笑しそうに笑っていた琴架先輩が、そっと耳打ちして教えてくれた。
「あのね、この頃ほら、利央ちゃん少し調子悪そうに見えたから。昨日は特に……それで心配して今日捜して回っていたんですよ」
「…はあ?」
その言葉に、梶木先輩の顔を見ると、若干赤くなっている気もする。
「まあ、でも…解決したらしいな」
逆井先輩が苦笑気味に言った。
「えっと、…すみません」
「いや、良いんだ。それならそれで。俺たちじゃあ役不足だったかもしれないし、な」
「い、いえ、そんなことは。………えー、梶木先輩は確かにそうかもしれませんが」
そんな軽口を叩けるほどには回復している。
そのアピールのために言ったのであって、決して本心ではない。……タブン。
「ちょーっと待て近江ィ、それはどういうことだ。俺ほど頼れる先輩はいないだろう!」
いつの間にか回復した梶木先輩が、腰に手を当て笑いながら、そんなことを言っている。
「俺はお前ほど『頼れない先輩』は見たことないがな」
頼られたいなら普段の行動をどうにかしろ、と逆井先輩は容赦の欠片もなく言い切った。おっしゃるとおりです。思わず拍手。
「んだよソレ……ああいや、でもホンットそうかもな、この場合は?」
…珍しい、を通り越して悪寒がした。
なんだ、普段そんな自分を下に見せるようなことを言わない人なのに。逆に怖い。怖すぎる。警戒していると、案の定、最初現れた時のように、あるいはそれ以上にニマニマと笑いながら、
「だって相手が加嶋だからなあ~」
「………なにわけのわからないことを」
「またまたぁ。とぼけんなって! 大丈夫だ、俺はちゃんとわかってる!」
絶対わかってない。
怒鳴りたい気持ちをぐっと堪え、あたしはニコッと笑って見せた。完璧に引き攣っている自信がある。
「そうですか。病院紹介した方が良いですか? どこが良いでしょう。耳鼻科? 眼科? それとも精神科とかの方が良いですか?」
「……あの、近江サン? 目がマジですよ?」
「そうですか。そうですね。じゃあ眼科は除外しましょう。さあ、あと二つですよ。どっちが良いですか?」
「うえっ? こ、琴架ぁ~…」
「あ、はい。えっと…鎮君は精神科よりも耳鼻科の方が良いと思いますっ」
「いやそういうフォローを求めてるんじゃなくって……」
「というかフォローじゃないだろう、それは」
「利央…お前、そろそろ落ち着け…?」
「落ち着いてるよ」
いつもどおりのやり取りだ。
いつもどおり。
あたしも。周りも。
だから、
少しだけ泣きそうになったという事実は秘密、ということで…ね。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。