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「イオリ、引っ越すんだってな」
びくっと肩が震えた。
「本人から聞いた」
その言葉に、そう、とだけ返す。正確には、そう、としか返せなかった。
「それが凹んでる理由?」
「…あたし、凹んでるように見える?」
質問に質問で返すのは卑怯だ、というのを聞いたことがある。あたしもその話を聞いた時は確かにそうだと思った。けれど、そう訊き返さずにはいられなかった。
どう見えているのか。
予想は、付くけど。
「見える」
端的な答えに、やっぱりな、という想いを込めて苦笑した。
「そっか。凹んでるのかぁ、あたし」
それでも、やっぱりそれはしっくりこない。ちゃんと当てはまってくれない。
なんだろう、この気持ちは。
なんだろう、その答えは。
「でも別に、それはおかしいことじゃないと思うけどな」
「…………」
「当たり前のことだと、思うけど。違うか?」
「……そう、だね。そうかも、ね」
肯定しながら、あたしはそんな当たり前のことに、初めて気が付いた気分だった。
「当たり前、かあ…」
確かに、そうだ。
当たり前。
だって、友人が引っ越すのに。寂しいと思わない人がいるとしたら、見てみたい。いや、いるのかもしれないけれど。少なくとも、あたしは違って、寂しくて……………寂しい?
そう、そっか。
霧が晴れる。
そっか。そういうことか。
なんだ。簡単じゃないか。
簡単すぎて、気付かなくなってしまうくらいに。
なんでこんなことを気付くのに、こんなに手間取るのか、笑ってしまうくらいに。
簡単じゃないか。
もっと楽に考えれば良かったんだ。
勝手に複雑にして、勝手に悩んで、本当に馬鹿だ、あたしは。
答えは、至ってシンプルなものだった。
そっか。あたし、
「…………………寂しいんだ」
「は?」
「寂しいの。でも、当たり前だよね。だって―――――イオリは親友、なんだから」
いきなりの言葉に、冬夜は訝しげに首を傾げた。当然だ。当然なのだけど、何故か今はそれがひどく可笑しい。遠慮などしても仕方がないので、盛大に笑ってやる。
「ふっ…あははははははッ!」
「……どうした。とうとう壊れたか?」
「こ、壊れたって…壊れてないって……くっ、はははッ」
ていうか、とうとう、ってどういう意味だ?
夏夜先生や梶木先輩ならいざ知らず。あたしをそこと同じところでカウントするのはやめて欲しい。いや本当に、マジで。嫌過ぎる、そんなの。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。