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今日はミーティングではない。
だから、イオリと一緒にいる理由は、どこにもない。
そのことに多少ホッとしつつ、あたしは足早に教室を出た。ミーティングじゃない時は別行動が多いので、そんなあたしの行動はおかしくはないはずだ。
………だから、イオリと一緒にいる理由は、どこにもない………。
後から考えて、それっていつものことなんじゃないかと思った。だって、あたし達は別に、理由があって一緒にいるわけじゃなかったんだから。
それってつまり、一緒にいなくてもいいってことなのかな、と少しだけそんなことを考えてしまった自分に嫌悪しながら、それを振り切るようにシャッターを切った。
思ったとおりの写真が撮れない。当然だ。心が篭っていない、こんな空虚な写真を撮りたいわけじゃないんだから。
今日はもう帰ろう。
こんな気持ちを抱えたままで、良い写真なんて撮れるわけがない。誰かに会ったりなんてしませんように、と祈りながら下駄箱まで辿り着く。順調順調。しかしそれも所詮そこまでのようだ。
「………あ」
思わず声が洩れた。
「ん……?」
相手から、不思議そうな声が上がる。
まあでも、イオリじゃなかっただけ、まだ良かったかもしれない。あっちが普通でも、こっちは普通じゃない。
そんなことを思いながら、そこにいた人物に改めて挨拶をした。
「あー、…冬夜サン? えっと、あたし、もう帰るから、そう言うことでよろしく。それじゃさよならまた明日」
………挨拶?
案の定というか、彼は「待て」と言って、あたしの前に立った。そんなことをしなくてもちゃんと呼びかけに応えて止まるのに。……いや、どうだろう。思い直す。もしかしたら聞かないフリしてそのまま行っちゃったかも? 否定できないところが悲しい。
「お前さ、ホント大丈夫か?」
「………」
何が、としらばっくれようかと一瞬考えたが、止めた。そんなことをしたって無意味のような気がした。
「大丈夫だよ」
けれど、本音を言うことは、できなかった。
それが伝わってしまったのだろうか。冬夜ははあっと大きくため息を吐くと、
「俺の質問の意味がわかってる時点で、大丈夫じゃないと思うぞ?」
大丈夫なやつはいきなりそんなこと訊くなっつって笑い飛ばすだろ、と彼は言って、それから何を思ったのか、あたしの腕を掴んだ。
「ちょっ………あ、あたし今から帰るんですけど」
「時間取らせないから」
なるべく冷静を装ってみるが、果たして意味があったかどうか。少なくとも、自分よりもずっと冷静でいる彼に対しては限りなく意味のないことだろうと考える。
中庭に出て、冬夜は無言のままそこにあるベンチに座った。三人用…だが頑張れば、四人は座れるかもしれない。頑張る必要性が全く感じられないが。…とにかく、二人なら十分に余裕がある。中庭のベンチ、といっても、雨が振り込まないように、簡易だが屋根が付いている。ただ、ここに来るまでの途中には屋根があるわけではないので、肩や髪が多少濡れてしまった。
それを片手で払うように拭いていると、冬夜は突然パッと手を離した。あたしが逃げ出すとかは考えないんだろうか? いや、しないから別に良いんだけど。
ここまできたら最後まで付き合ってやろうじゃないか、と投げやりな気持ちを抱えながら、その隣に、少し間を空けて座る。
近すぎもせず、遠すぎもしない距離。もしかしたら、これが一番楽なのかもしれない。近すぎると、いろいろと大変で、厄介で、苦しいのかもしれない。
きっとイオリとの距離は近すぎるから、だから辛いんだろう。
でも、それでも…………思う。あたしは、思う。
あたしは、――――それは決して、悪いことでも、嫌なことでもないと、そう思う。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。