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「…………い、……おい、利央? どうしたんだ」
「へ?」
気付けばぼーっとしていたようで、その言葉にぽかんっとしたままとりあえず声のした方に目を向けると、冬夜が怪訝そうな顔で、あたしを見ていた。それに気付いたものの、その後どうして良いかわからず、結局口を噤んでいると、
「何かあったのか?」
「ああ…まあ、うん」
適当に言葉を濁す。
肯定こそしたものの、自分でもよく意味がわかっていない。ない、ってこともないから、正しい解答としては、これで合っているのかもしれない。正しい返答かどうかは別の問題として。
目が無意識に、イオリの方に向いた。彼女は次の授業の準備をしているらしい。机の中から勉強道具を取り出している。
冬夜もそれに気付いたらしく、あたしの視線を辿って、同じところに行き着く。けれど、何も言わなかった。…言われてもきっと、何も答えられなかっただろうけど。
イオリから『あのこと』を聞かされてから、ずっとこんな感じだった。なんだかよくわからないけれど、なんだかよくわからないから、結局あれからイオリに何も訊けていない。それどころか、まともに話すら出来ていない。イオリがどうとかいうのではなく、単に自分の問題。
というか、その『自分の問題』とやらがわからなくて困っているんだけど。
なんでだろ。
なんとなくなら、わかるけれど。でも、それは所詮なんとなく、なのだ。
きっと小さい頃から一緒にいたから。ずっと一緒で、それが当たり前で、それこそずっと雨が降っているのが当たり前なのと同じくらいに、それは当然のことで。
当然だったから、それが急にいなくなることへの恐怖、なのだろう。
でも、たったそれだけのことで、自分がここまで動揺するとは露ほどにも思っていなくて。
なんでだろ。
結局そうやってループしていく思考。
「まあ、」
冬夜の言葉にびくっと肩を震わせた。忘れてた。そうだ。話してる途中だった。急に話し掛けられたわけではないのだけれど、急に話し掛けられたようなそんな錯覚の所為で、心臓が必要以上にドキドキしている。そんなあたしに気付いているのかいないのか、冬夜はそのまま言葉を続ける。
「どうにもならなくなったら、周りに相談すれば良いんじゃないか?」
「………うん」
するとか以前の問題に、その相談する内容が既にあやふやだったりするのだけれど。だからしようにも出来ないし………したいとも、思わない。
これはきっと、自分の問題だから。自分が答えを出すことだと思ったから。そうしなくてはいけないことだと、そう思っていたから。
ただ、その言葉はありがたかった。頼るところが在るというだけで、多少胸のつっかえが取れる気がした。
別れはいつか、必ず来る。
それも当たり前のことだ。…そういうもんだ。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。