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美味しいと噂されるだけあって、味は大したものだった。
甘すぎるのは嫌いだけれど、こういう控えめな感じの甘さは好きだ。
「…そんなに美味しい?」
「え?」
「ほっぺ、緩みまくってるけど」
可笑しそうに、肩を震わせるイオリに、思わず口を尖らせる。笑われるほど変な顔をしていたつもりはないんだけど…というか、これじゃさっきと逆じゃないか。つまりいつもと同じじゃないか。なんか、悔しい。
いつもと同じ、いつもどおりの日のことだった。
「利央、あのさぁ」
珍しく、イオリは言い辛そうに言葉を濁す。何だろう、とは思いながらも、「何~?」とカメラに集中していたために生半可な返事をする。
少し、間が空く。
「私ね」
意を決したような、声。
「引っ越すの」
ふうん、そっか、そっか、引っ越すのか、それは良かったね。
って、ちょっと、待った。
「………え?」
ビックリして、顔を上げた。
「ほ、ホント…に?」
うん、と頷くイオリは、嘘を吐いているようには見えなかった。
「そ、なんだぁ」
なんだか妙に間の抜けたものになってしまったが、今のあたしにはそれを恥じる余裕すらなかった。
動揺していることを自覚し、それが何からくるものかもわからずに、
「一戸建て?」
「うん。そうみたい」
「そっか…良かったね。イオリ、前から一戸建てに住みたいって言ってたし」
「…うん」
あたしは笑って誤魔化した。
周りも、自分も。全て、誤魔化した。
良かった。
良かった。
…良かった? 本当に?
いや、良かった。はずだ。だって。
そうしていれば、何か楽なような気がして。
そうしていれば、何も解らずに済むような気がして。
笑え、笑え。笑っていろ。そうすれば大丈夫だから。
そんな言葉ばかり、あたしの中で渦巻いていた。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。