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「利央?」
不思議そうなイオリの声にハッと我に返る。えぇと、なんだっけ?
はて、と首を傾げると、イオリはそれだけで、あたしの身に何が起こったかを見抜いたらしい。いくぶんか呆れたような顔で、
「だから、部活。決まったの、って話をしてたのよー」
「…あぁ。そうだったね」
そうそう。そんな話をしていた気がする。それを考えている途中の一体どこで、話が逸れたんだろうね。…ああ、この場合逸れたのは『話』じゃなくて『思考』だけれど。
で、なんだっけ。そう。部活だ、部活。
またも逸れそうになっていた思考回路を、危ういところで気付いて、本題へと戻した。
「まだ決まってないかな。ていうか、決まってたらもう今頃は書いて出してるよ」
ぶっちゃけた話、部活の見学にすら行っていない状態。決めようにも決められない。
「強制だから早いとこ決めとかなくちゃ、とは思ってるんだけどねえ」
もう既に、早くはないけど。期限、明後日だし。
そんなあたしの表情から、その事情を読み取ったのか、イオリは「ふうん…」と小首を傾げた後、
「それじゃ、今日これから回ってみない? 雨強いし。弱まるまでの時間で充分回れると思うけど」
顔を上げ、にこ、と笑った。
うーん、と唸ってみる。確かに、今のこの下を歩いて帰ったら、たとえ合羽を着ていたとしても、濡れることは必至だ。部活はどっちみち、いつか見に行かなくてはいけないだろうし、その機会が次にいつあるかも分からない。下手をすれば、そのまま決めるなんてことにもなりかねない。それは困る。
どうやら、答えなんて考えるまでもなかったようだ。
「…分かった。良いよ、行く」
「そうこなくっちゃね~」
イオリは満足そうに頷いて、それから手に持っていた入部届を、あたしに差し出す。
「じゃ、行きましょーっ。レッツゴー」
右手を宙に突き出して、どうやら何かの決意表明でもしている様子のイオリを急かすように小突いて、あたしは入部届を手に、教室のドアに手をかけた。
建て付けの悪い扉が、がらら…という音を出して開いた。
イオリの方を振り返って、そこでようやく、あたし達以外の者が教室にいないことに気付いた。ふと窓の外を見ると、雨足が弱まっている。まだ少し強めだけど、これなら今からでも帰れそうだ。
気付かないフリをして、言う。
「何してんの、イオリ。早く行くよ」
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。