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最近イオリの様子がおかしい。
何がおかしいのか、詳しく言おうとすると言葉に詰まってしまうのだが、どこかおかしいのだ。なんとなくそわそわとしていて、何かを隠しているというか…そんな感じ。でもそれが何なのかはわからない。まあ、別に何かあった時に必ずあたしに言う義務はないから、良いんだけど。
良い、んだけど……やっぱり少し寂しいと感じてしまう。
けれどイオリは、言うつもりがあるんなら、言い辛くたってちゃんと言う人だ。言わないということは、言うつもりがないんだろう。だから、深くは訊かない。
彼女から話してくれるまで待とうと心に決めて、あたしはカメラ越しに空を見る。
今日はいつもよりもちょっとだけ雨が弱い。こういう時の空は、黒いというよりは、どこか黄色い。これはその厚い雲の奥にあるはずの太陽の影響だろうか。
青い空に太陽が浮かんでいたら、きっと綺麗なんだろうな、と思う。太陽なら、何度か見たことがあった。
雨は夜になると、止む。朝になるとまた降り出す。だから、その振り出す直前なら青い空が見れるかと思って、朝早く起きて外で見ていたことがある。青い空は見えなかったけど。その代わりに、太陽を見た。ちらっとだけど。空全体を覆っていた雲がすぐにそれを隠してしまったから。
一瞬だけ。ほんの一瞬だけだった。後で、それは『朝日』と呼ばれるものなのだと知った。
あれも、綺麗だったな。
そういえば、この頃見てないな…。
何度か繰り返して、結局青い空は見えなくて、だから、いつしか諦めてしまった。
また、見に行きたいなあ…。
平日はちょっとキツイから、休日でも使って。
その時はカメラも持っていこう。
あれも映してみたいから。
空を見上げる。雲に覆われた空。これが取り除かれたところを、見てみたいと思った。《水の都》と呼ばれるこの街で。
きっと、綺麗だろう。
一面に青空が広がって、その下に、慣れ親しんだ街が在って、―――それはきっと綺麗だろう。
「利央~? 何、また空見てるの?」
「………イオリ」
少し驚きを含ませて、声を発した。頭に一瞬、最初に浮かんだ疑問が浮かぶ。
ねえ、貴女は何を隠してるの?
話してくれるまで待とうと決めたはずなのに、口からその言葉が洩れてしまいそうで怖かった。一度大きく息を吸ってから、
「そうだよ。今はちょっと雨が弱くて…雲も少し薄いなあ、って」
「でも青い空は見えないわねえ」
からかうように言われ、少しだけムッとする。そんなあたしの様子に気付いて、だろう。けれどフォローをする気はないらしく、
「でも仕方ないことだもの。ここはそれで有名な街ですし?」
「まあ、そうだけどさぁ…」
「でも見れたらきっと綺麗だと思うわよ」
それは、あたしがさっき思ったことで。
少しだけ息を呑んだ後、思わず笑いが込み上げてきた。いきなり笑い出したあたしに、さすがに驚いたのか、イオリがぱちくりと目を瞬かせている。
「どうしたのよ、急に」
「き、気にしなくて良いよ。思い出し笑い」
「人の顔見て思い出し笑い? 私、別に利央を笑わせるようなことした覚えないけど?」
心外だと言わんばかりに、顔を顰めてみせるイオリに、ごめんごめん、と謝る。なんか、いつもと立場が逆になっているような気がして、なんとなく気分が良い。
ようやく笑いが収まったところで、イオリが口を開いた。
「それで、利央。私………」
開いたものの、すぐに閉じてしまう。何、と先を促すように言ってみても、イオリは視線を少し泳がせたままだ。
あたしも辛抱強く待ってみる。もしかしたら、聞けるチャンスかもしれないし。
しかし、時間をたっぷり使って出てきた言葉は、
「………ね、今日ちょっとお店寄ってかない?」
「は?」
何の?
「なんか、美味しいクレープのお店があるみたいなのよ、近くに」
「はあ」
思わず気のない…というより気の抜けた返事をしてしまう。なんていうか…少し構えていただけに、拍子抜けした感じだ。
………ま、いいや。
「良いよ、それじゃ、今日はもう切り上げて帰ろっか」
イオリがホッとしたように、胸を撫で下ろしたのがわかった。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。