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放課後。
「あっれ、利央ちゃんにイオリちゃんはわかるけど、どして冬夜くんまで?」
ツルが駆け寄ってきたと思ったら、心底不思議そうな顔で、可愛らしく小首を傾げて見せた。遅れて近くに来たハギさんも、そういえばそうだ、と言いたげな顔。
「休み時間ならわかるけど…」
「あ、もしかして夏夜ちゃん先生のトコに用事とかっ?」
ならついてくーっ、と言わんばかりの笑顔に(どうしてツルってばよりにもよって夏夜先生に懐くんだろう…)、さすがに資料室についてこられては厄介だと、あたしは口を開いた。
「写真部、入ったから。向かうとこ同じでね」
今日は金曜日、だから集まる日。昨日もなんやかんやで皆集まったから、どうせなら今日はそのまま部活に移して欲しかったんだけど…。
大体、あたしたちが入ってすぐの頃は、そんな集会めいたものなど無かったというのに…。ほんと、なんで?
むう、と一人唸っていると、ツルがきょとんとした顔をしているのに気付いた。
「なに、ツル?」
「……………ぇと」
「利央、主語が抜けてる所為でチーちゃんわかってないみたいよ? さっきの」
そんなんだったら、自分が教えてあげれば良いのに、なんだってあたしに振るかな。いや理由はなんとなくわかっている。
だけど。
だから。
「………………」
「…えーと、つまり加嶋が写真部入ったってことを言いたいの?」
ハギさんが見かねて助け舟を出すと、イオリが面白く無さそうな顔で、まあそういうこと、と肯定する。
「あ、なるほどねっ!…あれ、ならどうしてイオリちゃんは不機嫌?」
「不機嫌ってわけじゃないわよ? ただ、ねえ…」
何か含みを持たせた目で、イオリがあたしの方を見る。なんなんだ、一体。しかし、なんなのかは不明だが、それが厄介事であるような気がするのは………気のせい、ではないと思う。むしろそうであればどんなに良いことかってな感じなんだけど。
とにかく、
「あーもうっ、ほら、行くよ、イオリ…に冬夜。それじゃあね、ツルにハギさん」
言うなりあたしは、二人の腕を掴むと、教室を後にする。
「うん、また明日」
ハギさんがそれに普通に返して、
「あ、うん。ばいばい?」
ツルはあたしのその急な言葉にビックリしたようで、きょとんとしていたけれど、ハギさんのソレにつられるようにして疑問符を付けながらも別れの挨拶を口にした。手を振る動作がやけに小さいのは、この急展開に戸惑いがあるからだろう。
「ねね、萩」
「何」
「アレ。どゆことかなあ」
「ん? ああ…アレ、ね」
納得したように、萩聡は苦笑した。智鶴に、ではなく、この場に居ない二人に対して、である。尋ねる智鶴にしたって、別に自分に訊かなくたって、その大体の答えはもう持っているだろう。彼女はいつも天真爛漫に笑っているが、馬鹿ではない。要は、話題を振ったということだ。
「まあ、一歩前進ってとこじゃないか?」
「どっちが?」
「どっちも、でしょ」
確かにその通りだ、と肯定するように、くすくすと智鶴は笑った。いつもよりも、多少控えめな笑み。
「それにしても……何があったんだろうね?」
「さあ、それはわからないな。本人のみぞ知る、ってやつじゃないか? もしかしたら、その『本人』には当事者以外も含まれるかもしれないけど」
「うう~~~…なあんか、仲間はずれにされた感じだなあ」
悔しそうに、智鶴が眉を顰めた。
「いじけない、いじけない」
「いじけてないもんッ!」
「はいはい。…それじゃ智鶴、集まり遅れるから、急ごう」
「…なんか軽くあしらわれたような気がする」
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。