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「ていうかさ、良いの? 梶木先輩に頼まれてたこと」
「あ」
思い出したのは、昼休み。イオリの言葉によってだった。ていうかアンタ、憶えてたなら自分で言えば良かったじゃないか。何も、あたしにわざわざ言わなくたって。
そんなあたしの思いなど、彼女にとってみれば知ったことではないのだろう。自分の役目はもう終わったとばかりに、卵焼きを口に運んでいる―――って。
「ちょっと待て。それあたしのじゃ?」
「ん? まあ気にしない気にしない」
「気にするわッ! 一体いつの間に…」
「良いでしょいつだって。強いて言うなら、利央が「あ」って言って一瞬動きを止めた時」
何故か自慢げにそう言った後、ぱく、と卵焼きを口に入れる。食べたよ、食べちゃったよこの人。それあたしのなんですけどね。食べて良いとかあげるとか言ってないし、そもそも貰うよの一言すら無かったんですけどね!?…まあでも、口に入れてしまったものを出せとはさすがに言えない。
仕方ないなあ、と卵焼きは諦めて、それから同じように机を固めて男子と談笑しながら昼食をとっている加嶋冬夜(彼はどうやら聞き役の方が多いようだが)にちらりと目をはしらせる。
さて、どうしようか。頼まれたことを「忘れてました」で済ましてしまうのは、あまりに無責任な気がして、そういうのは極力避けたい。たとえ相手があの梶木先輩で、それがどれだけ無理やりに取り付けられた頼みごと(頼んでいる、という表現は何か違う気もするが。押し付けられた、というべきか)であったとしても、だ。
「どうにかして伝えなくちゃねぇ」
「ん、頑張れ」
あくまでも自分はやらない、というのを突き通すらしい。
「イオリ、アンタも頼まれてるんだけど…そこらへん、ちゃんと理解してる?」
「してるしてる。ただほら、席が隣の利央の方が、なにかと言う機会もあるし、ね」
「それはそうだけど、まずアンタからは協力する気が無いでしょうが」
「そう?」
こてん、と小首を傾げてとぼけるイオリに、
「だって、もしイオリが加嶋冬夜の隣だったとしても、言わないでしょ」
「………利央」
あたしの言葉に、イオリはいつになく真剣な顔をした。ただ、その間にも忙しなく箸が口と弁当箱を行き来していたから、その全てがそれで台無しになっていたが。しかしあたしは何故だかその有無を言わさないような雰囲気に呑まれて、
「な、何?」
身体を少し、引っ込める。
「もしも、っていう仮定の話をするのはよしましょうよ。もし私が隣だったら、なんて、実際違うんだから、考えたって意味の無いことだと思わない?」
「………もしも、の件(くだり)には同感だけど、この場合は、『思わない』。そもそも、それとこれとは全くの別問題でしょうが、アンタの協力の有無とは」
ああそうだ。彼女はこういう人だった。
そんな馬鹿をやっていて、打開策など出るはずもない。時計を見ると、もう昼休みは終了間近だ。仕方ない。授業中か放課後かにどうにか頼み込むしかないか。…彼に放課後、どうしても外せない用事なんてのが入ってないことを祈るばかりだ。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。