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じい、とその横顔を見つめてみる。別に恋慕の情とか、そういうのではなく。どうしようかなー、と、思って。どうしようも何もやらなくては、なのだが、しかしなんでまた自分なのか。
「……………」
理由はわかっているのだ。なにせ同じクラスだし。そして隣の席だし。
「………………………」
だからって、なんでそんなことしなくちゃいけないのか、ともう何度目かのその疑問にまたぶつかる。イオリだっているのに。なんであたし?
「………………………………何、さっきから」
そんなあたしの視線の所為か、いや間違いなくその所為だろう、彼…加嶋冬夜は微かに眉を寄せながら、困ったような表情を浮かべた。それは他人から見れば微々たる変化でしかないが、そこは同属ということで、何週間か一緒にいれば、多少は読み取れるようになった。
「ん?」
「いや、こっち見てるから。…恨めしそうに」
…そんな目だったかなあ? うーん、と頬杖を突いたまま軽く首を傾げる。まあ、そう言うのなら、そうだったのだろう。
「あー、ごめん。ちょっと八つ当たり」
「それ、謝ってるのか?」
「一応ね」
「一応か」
どことなく淡白な会話。いつからこうなったのだろうとか、そんなことは考えない。いつからも何も、最初からこうだ。なんとも気が楽で良い。ただ、彼の顔に浮かんでいる微かな笑いはいただけない。なんだか馬鹿にされてるような気がして。…ただの被害妄想、かもしれないが。
「それで?」
促すような言葉に、ああ…と言いよどんで、顔をついと逸らす。
そうしたら、ニヤニヤ(本当に、その擬態語がよく合っている)と笑っているイオリと目が合った。…あ、なんか腹立つ。
ていうか、あの馬鹿…じゃなくて、こほん…えー、我らが副部長に頼まれたのは、決してあたしだけじゃなかったはずだ。今あそこでああやって笑っている彼女にだって、その役目(…そんな大層なものでは間違ってもないような気がするけど)があるはずなのだ。
「……………」
じとーっ、とした目で睨んでみたものの、効果はない。席を立ってこっちに来る気配など、全くない。全部あたしに押し付けようと言うのか。そんなの不公平だ。もはや何が『公平』なのかの基準も曖昧で微妙なところだが、とにかく不公平だ。少なくとも公平ではないだろう。
そんなことを考えているあたしの机が、大きく揺れた。ばんっ、という大きな音付きで。
思わずびくりと肩を大きく震わせれば、次の瞬間、先程鼓膜を叩いた(むしろあれは『殴った』だ。それほど大きかった)音量に負けないくらいの大きさで、
「おっはよーっ、利央ちゃん!」
ツルの元気120%の挨拶が聞こえた。
「…おはよ、ツル。今日も元気だね、君は」
あまりの大音量にぐらぐらする頭を片手で押さえながら言えば、彼女はにへへとなんとも嬉しそうに笑って、隣の加嶋冬夜にも同じように挨拶をする。ただ、あたしの時より声は小さい…いや小さいといっても、十分に大きかったが。
どうでも良いけど、あたしいつまで彼のことをフルネームで呼ぶ気なんだ? いい加減、長くて嫌にもなってくるのだが………ま、いいや。
「おはよう、近江さん。…大丈夫? 智鶴の騒音としか呼べない挨拶が朝からだと、きついでしょ」
その物言いに思わず苦笑する。ハギさんがそんな風に言う相手なんて、ツルくらいだ。やっぱり幼馴染って仲良いのだなあ、と再確認。したところで、どうというわけでもないけど。でも……あれ? その法則でいくともしかするとあたしとイオリも『仲良し』とかそんなのに…………ああ、さっきの法則は誰にでも当てはまるわけじゃないのか。
一人勝手に納得してから、とんとん、と軽く耳の辺りを叩いて、
「………あー、一応耳は正常に働いてるよ」
「そ。良かった」
にこ、と穏やかに笑うハギさん。
「ていうかさっ、それじゃあまるであたしがすっごく煩いみたいじゃない!」
それに食って掛かるツル。
「あれ、違ったの?」
「違うよッ」
「それは大変。自覚無しでやってたんだ、今まで」
テンポよく行われる、漫才のような、むしろ夫婦漫才のような、会話。…『漫才』と『夫婦漫才』の違いなんて知らないけど、そこはこの場合大して関係ないし問題もないから、スルー。
「仲良いねえ」
「………だな」
きっとあたしが加嶋冬夜とこんな短い言葉(…いや短いは関係ない。関係があるのはその内容だ)を交わしていたことなど、二人は気付いていないだろう。なにしろ二人の…というか、ツルの声に掻き消されてしまうくらいの大きさでしかなかったから。
そして、あたしも気付いていなかった。自分の頭から、彼に伝えろと言われている言葉のことがすっかり忘れ去られていることに。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。