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ことの発端は、資料室。特に大会も無いのに何故だか集まる月・水・金のその真ん中。つまり水曜日。入部当時はそんな決まりは無かったのだが、何故だか先輩一同が集まるので、自然そういう方向に持っていかれた。
あたしは、本当に仕方がないので、行っている。行きたいと思って行っているわけじゃない。
ただ、この前行かなかったら次の日、資料室がまるで空き巣でも入った後のように荒らされていたので、その防止のために。その『空き巣』が入る前から散らかっていたのだが、それが更にとなると、いかに悲惨な状態だったかを察してもらえるだろう。
「そういえば、夏夜先生の弟さんが転入されたらしいですね」
どこかのほほんとした空気を醸し出している、彼女の発言。実際性格もその通りという枝折琴架先輩は、両手にそれぞれコーヒーを持った状態で、思い出したように言った。ストレートの長い黒髪は、どうやらクラスの誰かしらに髪を弄くられているらしく、結構いつも違う髪形をしているが、今日は左右の高い位置で結んでいる―――いわゆるツインテールのようだ。
本当にそれは、ふと思い出しただけだったようで、そのまま閉口し、手に持っていたコーヒーの片方を、足を組んで座っていた副部長である梶木鎮先輩に差し出す。
「ほう、そうなのか」
コーヒーを受け取ると、梶木先輩は口元を緩めながら答えた。
ちなみにこの人は夏夜先生の次にこの資料室を散らかす人で、出入り禁止と言っておいたはずだが、そんなことどこ吹く風という様子で、高く積まれた分厚い本の上に腰を降ろしている。紫の髪は琴架先輩と同じくらい長いようだが、彼女のようにストレートではなく、ところどころ撥ねている。もっとも、首の後ろで布のようなものを使って縛っているため、前から見ればそんなに長いとは気付けない。
返事があったからか、琴架先輩の黒い瞳が、梶木先輩の方に向けられた。
「ええ、そうみたいですよ」
もっとも、話を発展させる気はさらさらないらしく、そのままにこりと微笑むと、もう片方のカップを、そこらへんから適当に取ったであろう本を読んでいる部長の逆井叶一先輩に渡す。逆井先輩は小さく礼を言うと、再び本に視線を落とした。
念のためだが、ここは写真部であって、文芸部とか、そういったところではない。つまり、読書というものは活動内容には入っていない。…うん。念のため、だ。
まるで梶木先輩とは逆の、赤茶の髪をした部長は、物静かで、かといって穏やかな性格をしているわけではない。特に副部長である梶木先輩には厳しい。いや、厳しいというより…ストッパー役?
そうそう、思い出した。この物置と化している資料室からコーヒーメーカーを発掘したのはこの人だ。何で資料室からコーヒーメーカーなんて物が出てくるかは問題ではないらしく(琴架先輩曰く、気にしたら負け、だそうだ)、掃除してようやく開いた一角をソレが占領している。
「利央ちゃんたちも要りますか?」
要るんなら淹れますよ、と後輩にも敬語で接する(最初は違和感があったけれど、もう慣れた)琴架先輩に、
「あー、今日はいいです」
「私も遠慮しておきます」
あたしは首を横に振り、次いでイオリがあたしよりもやんわりと断る。
「俺は貰って良いッスか?」
一年生の和羽茜くんが挙手すると、もちろんです、と琴架先輩は嬉しそうに笑った。一年生にはもう一人、柚川真奈ちゃんという子がいるだけれど、今日は病院ということでお休みだ。元々身体が弱い(といっても、実生活に影響があるほどではない)らしく、定期的に病院に行っている。
その光景を見ながら、何か静かだな、と思う。真奈ちゃんがいないからではなくて、それもあるといえばあるのだけれど、でもそうではなくて。なんでかと考え、すぐに答えに行き当たった。
…梶木先輩が、妙に静かなのだ。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。