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「何、あれ」
可笑しそうに冬夜は笑った。
「何って…私の可愛い幼馴染サン?」
おどけたようにイオリも返す。
先程まで近くにいたはずの少女は、もう彼方。あの細い身体のどこにそんな力がと思ってしまうくらいの見事な走りっぷり。彼女は確か短距離よりも長距離の方が得意だったはずだけど、と少々場違いなことを考えてみる。
ちょっと様子が気になって捜してみれば(それは案外容易だった。彼女の性格からして最低限の案内しかしないと思っていたし、それなら時間的にはそろそろ案内も終わりに近いはず。無駄なことは好まないだろうから、と教室から一番離れた音楽室のあたりをうろうろしていれば会えるだろうという推測は、見事に当たっていた)、二人で睨めっこよろしく突っ立っている場面に遭遇。そのことにも笑えたが、今の行動もそれに劣らず面白い。
「それじゃ、私も行こうかな。資料室」
不思議そうに自分を見る視線に、イオリはくすくすと笑った。
「今から見に行ったら、夏夜先生と言い争ってる利央が見れるかもしれないし」
もしくは、一方的に言われているか、それとも既に丸め込まれているかもしれない。
どの場面に出くわしたって、結局彼女は最終的に、資料室の掃除に取り掛かるのだろうけど。面倒くさがりだと自分で断言していて、実際そうである彼女は、けれど真面目過ぎるほどに真面目だ。
「一緒にどう?」
「…いい。行かない。俺はそこまで野次馬根性してるわけじゃないし」
「ああ、違う違う」
野次馬根性なわけじゃなくて。そう否定する。
むしろイオリは彼女と一緒で、面倒くさいことは嫌いだ。それに関しては、彼女以上だと言える。どうでも良い他人にかまけているほど、暇を持て余しているわけじゃあない。野次馬のようにうろちょろと、興味本位でどうでも良いことを見に行くなんてもってのほか。誰が好んでそんな面倒なことをしなくてはいけないのか。
ただ、
「あの娘を見てるのが、好きなだけ」
それだけ。
それは、本当。
面白いからとか、そういうのではなく(もちろんそれも無いといえば嘘になるけど)。
「………それにほら、あまりにもヒートアップしてたら止めなくちゃいけないからね」
誤魔化すようにそうおどけてみせて、イオリは踵を返して、資料室へと行くべく足を動かす。
「ちょっと」
呼び止められて、肩越しに振り返った。
冬夜は、その手に持った物…先程利央から強引に手渡された物を、軽く上に上げ、指し示し、
「礼言っといて」
「…気が向いたらね。そのくらい、自分で言いなさいよ」
その方が、彼女も喜ぶと思うし。とその考えに至った自分に苦笑を零す。結局自分の思考の中心には彼女が居るらしい。傍に居るのが当たり前と呼べる程、いつも一緒だから、それも仕方が無いのかもしれないけれど。
下手をすれば、依存と呼べるソレになる。それは危惧すべきことだ。…もう遅いかもしれないけど。
わかってる。
いつまでもこれではいけない。そう、何より自分自身が一番、理解している。
だけどね。
あと少しだけ。それくらいは許してよ。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。