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「それであそこが音楽室ね。―――と、このくらいかな」
ふう、とあたしは息を吐いた。ちょっと疲れた。
基本的に加嶋冬夜はほとんど喋らなかった。たまにあっちは何かと口を挟むくらいで。それだって別に会話を弾ませようとかそういうことじゃなく、単に知りたかったのだろう。あたしが答えると、返事は毎回「ふうん」だった。
…まあ別に、弾ませようとかいう以前に、あたしは会話がしたいと言うわけでもないし、だから良いのだけれど。ただちょっと、どうしてこの時期に転校してきたんだろうって思っただけで。それだってわざわざ訊いてまで知りたいとは思わなかったし。
なんにせよ、おかげでなかなかスムーズにことを運ぶことができた。予想よりかは大分短く終わった。もしかしたら彼もそれを狙っていたのかもしれない。何しろ面倒なことは避けたそうな顔しているし。
「それじゃ、あたしもう行くから」
少し考え、
「また明日ね」
「…ああ、また明日」
間を空けて、彼が答え―――不意に立ち止まった。
二、三歩進んだところで、あたしも立ち止まる。…立ち止まってから、あたし別にもう挨拶したし、つられて一緒に立ち止まらなくても問題なかったんじゃ、とそのことに後で気付いた。ただまた歩き始めるのも何かと、立ち止まったついでに、問い掛ける。
「どうかした?」
「雨降ってる」
全く想定外な返答に、何を言うんだコイツはと、奇怪なものを見るような目でまじまじと見てしまった。だって…そうでしょう? 雨が降っているのなんて、
「当たり前でしょ?」
「当たり前?…ああ、そっか。当たり前か、ここじゃあ」
その言い方が引っ掛かる。彼にとってそれは、当たり前ではないのか。…ないんだろう。きっと彼は、その自身の瞳のような空色の空を、何度も、それこそそれが『当たり前』だと思えるくらい、見てきたんだろう。
羨ましいなと、こんな時にさえ思ってしまう自分に苦笑する。いや、こんな時だからこそ、なのか。
でもきっと青い空に見慣れている彼は、羨ましいと思われること自体、不思議に思うだろう。
黙ってしまった彼の視線の先、窓ガラスの外へと目を向ける。雨足はまだ強い。暗くなればきっと、弱くなっていくのだけれど。
どうせなら一度くらい気まぐれに、昼間から晴れてくれれば良いのに。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。