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「それじゃ私は先行くわぁ」
イオリがニヤニヤと笑いながら言った。後で憶えてろよ、と目で語りながら睨みつけてもどこ吹く風と言わんばかりの軽い足取りで、イオリは教室を出て行った。
「よろしくねー、利央ちゃん」
「ごめんね、近江さん。本当は僕たちがやることなんだろうけど…今から学級委員の集まりがあって」
じゃなければ代わることできたんだけど。とそう言うのはツルともう一人、長身痩躯の男子の学級委員、駒木萩聡――通称ハギさんは、申し訳なさそうな微苦笑を浮かべながら、次に加嶋冬夜の方に顔を向け、
「そういうわけだから。あ、でも、他のことで何かわからないこととかあったら遠慮なく訊いてね。僕でも良いし、近江さんにでも良いし、………まあ別に誰でも良いんだけど」
誰でも良いのか。
「……………どうも」
小さく、ほんっとうに小さく、加嶋冬夜がお礼を言った。なんとなく意外だった。いや良いことだ。ただあたしの挨拶の時は何の返事もなかったくせに、とか。そんなことを少ーぅし思っただけだ。
萩さんはそれで満足したのか、にっこりと人当たりの良さそうな笑顔を浮かべた。
「じゃあもう行くね。開始時間も、」
そこで壁に掛かっている時計に目をやり、少々慌てた様子で、
「ちょっと迫ってきてるみたいだから。―――行くよ、智鶴。ちょっと急ごう。このままじゃ遅れる」
「えーそんなあっ。ずるいよ萩ッ。あたしも喋りたかったのにー」
歩き始めたハギさんに、唇を尖がらして、ツルが抗議の声を上げた。ハギさんは立ち止まって振り向くと、
「明日があるから。あるから足を動かすっ! ほら早く!」
ツルを急かした。渋々と言った様子でツルは歩き出す。少ししたところで、笑顔で振り返り、
「それじゃあまたねっ、利央ちゃんに冬夜くん!」
ばいばーい! と元気よく手を振る。ばいばい、とあたしが手を小さく振り返すと(だってさすがにあそこまではできない)うんうんと満足げに顔を上下に振り、ハギさんの後を追いかけ始めた。
「あの二人、仲良いんだな」
ぽつ、と加嶋冬夜が言った。いきなり話し掛けられ、多少驚きながらも、
「ツルとハギさん? あ、本名は鳩雨池智鶴と、駒木萩聡、ね。あの二人はまあ…幼馴染、らしいし。だからじゃないかなあ」
それにしたってどっかの誰かさんたちとは大きく違うような。あえて誰とは言わないが。
途端に静かになる。ふう、と一つ息を吐く。それから自分が用具をまだ鞄に入れていないことに気付いた。振り返って彼を見ると、もう鞄を肩に掛けている状態。やばい。
「ちょ、待ってて! すぐ終わるから!」
そう言ってすぐさま机の中の、持ち帰るものを鞄に放り込む。加嶋冬夜は無言のままだ。何か無言のプレッシャーを感じて(気のせいかもしれないけど)、あたしは慌てて鞄のチャックを閉め、
(あ。昨日夏夜先生から貰った案内図やらのプリント、鞄の中だっけ…)
傍から見ると相当間抜けに見えるに違いないと思いながら、再び開けた。しながら、恐る恐る窺うように彼を見る。案の定、彼は変な顔をしていた。
「いや鞄の中に君に渡すものがあったの忘れてて」
言い訳のようにそう言えば、ふうん、という返答。…相槌、ってことなんだろうか。
ファイルを引っ張り出して、ホチキスで止められたこの学校の資料を取り出す。机の上に置こうとして、その机が今自分の鞄に占領されていて何かを置ける状態じゃないことに気付き、
「…持ってるよ」
「あ、どうも」
とりあえず思っていたより悪いやつではないと判明。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。