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「えー、それでだなあ。あー…」
ぽりぽり、と鈴木先生は自分の頬を掻いて、しきりに何かを思い出そうとするように首を捻る。そんなことなら、連絡事項、メモでも取っておけばいいのに。
少し経ってから、おお、と言って手をぽんと打った。どうやら思い出したらしい。
「おお、そうだ。誰か加嶋に学校の案内とかやらなくちゃなんだな! つーわけで学級委員! 駒木と鳩雨池か。んじゃ駒木! 加嶋の学校案内よろしくな」
え、あたししなくて済む? 少し期待する。が、
「あ、朔ちゃん先生、そのことなんですけどねー、利央ちゃんがしてくれるんだそうですよ。夏夜ちゃん先生から頼まれたんだってー」
へにゃ、とツルが笑ってそう言うと、
「おー、そうか。それじゃ頼んだぞ近江ぃ」
本音を言ってしまえば嫌だ。が、ここは大人の対応とやらを求められているところなのだろう。眉を寄せながらも頷いた。
それとツルさんや。先生相手に『朔ちゃん先生』やら『夏夜ちゃん先生』やらと言うのはどうかと。まあ相手が鈴木先生だったから良いけどさ。(もう一人は問題外)
その彼女にとりあえず、恨みを含んだ視線を送ってみた。当然のようにツルは気付かないし、だから振り向きもしない。いや落ち着け自分。確かに言ったのはツルで、彼女が言わなければあたしは学校案内なんてそんなことしなくて済んだのかもしれないけれど、それは決して、そう断じて、ツルに非があるわけではないのだから、彼女を恨んだって意味がない。お門違いというやつだ。仮に恨んだとしても、今更その事実が変わるわけでもないし。
(これがイオリならなあ…容赦なく睨めるし恨めるし後で文句も言えたのに)
これというのはつまり、先生に夏夜先生との半ば強制的に取り付けられた約束のことを報告したことだ。
彼女に非はない。あったとしても、少なくとも悪意はない。おそらくは善意か親切心かで言ったことなのだし。これがイオリだったのならば、完璧に自分が楽しむためでそれこそ悪意しか篭っていなくて、だからあたしが怒っても、そういう理由を挙げることができたのに。
行き場を失った怒りが、頭の中をぐるぐると回っている。少し経てば治まるかと思って放っておいたのだが(そしてそれは正解だったのだが)、どうにも気分は上がらない。挙句「面倒」というあたしにとって一番厄介なものが頭の中を占領し始める始末。何が厄介かって、あたしにそれを止める気がないことが、だ。
(台風でも事件でも何でも良いから、午後カットで帰宅にでもなってくれないかな)
そんな不謹慎なことを考える程には、うんざりしていた。
…でもまあ、そんなことばっかり言ってはいられない。いい加減、腹括れって話。
台風なんてこの時期どころかこの街滅多に来ないし、まして事件だなんてとんでもない。
無理やりだとしても、一度は了解したことは確かなのだから。
空はあたしの気持ちを代弁するかのように、雨足を強めているようだった。…いつものことか。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。