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はあ、と肩を大きく落としたあたしは、最後の反撃とばかりに顔を上げ、
「っていうかさっき明日資料室の掃除するって言ってましたよね」
「え? あれ? そうだっけ?」
とぼける気か。ていうかやっぱり出任せだったんじゃないか、さっきの。
「…その用事が無ければ、先生がするんですよね、案内」
ぎくり、と夏夜先生の肩が震えた。にやり、と意地の悪い笑みを浮かべてみる。…やばい、夏夜先生のが移ったかも。まあ良いか、この人相手なら。いつもされている側の気持ちを少しは解って欲しいくらいなんだし。
「やるよ、やる。ちゃんと確り片付けるって」
ははは、とぎこちない作り笑いを顔に貼り付けた夏夜先生に、本当かなあ、と半眼で睨む。それからふと、過去に夏夜先生に掃除を頼んだ――という言い方はなんかおかしい。だってあれだけ物が散乱している原因を作ったのはこの人なんだし――時のことを思い出した。あの時は確か、『掃除』をする前よりも随分と、そう、随分と、汚くなっていて、
「いえ、やっぱ良いです。掃除はしなくて良いです。むしろしないでください」
自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。夏夜先生はさっぱりわかっていない様子で、首を傾げている。自覚ってもんがないのか。…尚更悪い。
「なんで掃除するの止めるのさ。せっかく綺麗にしようと…。あ、さては用事をなくさせて案内をアタシに押し付けようっていう魂胆だな?」
「違います。先生の『掃除』が『汚す』もしくは『散らかす』と同義だということは前回頼んだ時に経験したので、せっかく片付けたのに汚されたら堪ったもんじゃないから止めてるんです!」
大体、押し付けたのはアンタでしょうが。―――と、これは心の中で。別に口に出しても良かったんだけど、なんとなく。
無意識に語尾を荒げてそう言えば、今度は何か思い当たることがあったのか、冷や汗を浮かべ視線を明後日の方向へ向けながら、あー、と小さく呟いた。
「あ、そういえば明日はアタシ午後から所用があって…いや外せない用事でね」
そんなに実の弟の学校案内、したくないのか。
はあ、と溜め息を吐く。
「良いですよ。わかりました。やれば良いんでしょ、やれば」
「おっ、さっすが近江ぃ。話がわかるねえ」
「……………」
その言葉になんとも言えず黙っていると、夏夜先生はあたしの背中をばんばんと叩いて(痛いって!)、本当に機嫌が良さそうな表情で、
「よ~し、お礼と言っちゃなんだが、今日は車で家まで送ってってやる!」
言うなり夏夜先生はあたしの腕を引っ掴み、あたしは半ば引きずられるような体勢でその後を歩く。いやもう、半ばっていうか、引きずられてるんだけどね、完全に。
なんだかなあ。あたしはじゃあそうしますともお願いしますとも言っていないし、それどころか口を開く暇すら与えられていなかったんだけど。…まあ、送っていってくれるというのなら、ありがたくそうさせてもらうが。
結局あたしはこの人に振り回される運命にあるらしいということはわかった。
いや運命じゃないと信じたい。何しろ運命だったらあたしのこの苦労は一回や二回じゃ終わらないってことになる。だから、きっとこれは偶然なんだと、あたしはあたしに言い聞かせた。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。