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「それで利央、結局引き受けちゃったわけ?」
「…まあ」
気だるげに肯定すると、イオリは、へえ、とどうとでも取れそうな声を上げた。
「面倒くさいことになちゃったなあ」
あたしは肩を竦めてそう言うと、でも、とイオリはびしりと人差し指をあたしの鼻先に突きつけて、
「物は考え様だよ。転校生と親睦を深める良い機会じゃない。面倒くさいとか言わないの」
「親睦深めてどうしろと。そんなこと言うんだったらイオリがすれば、学校案内」
「嫌よ面倒だし」
…さっきと言ってることが違うんですけどイオリさん? ったくもう、他人事だと思って…。いや実際文字通り、他人事、なわけだが。それにしたって薄情だ。薄情者め。
「なになに、利央ちゃん、今日来る転校生くんと知り合いなの~?」
じとりと外の雨にも負けないくらいに湿った視線を向けていると、元気一杯、といった感じの女子…鳩雨池智鶴がぴょこんと可愛らしく顔を出した。さらさらとしたショートカットの銀髪が、彼女の動きに合わせて揺れる。大きくくりっとした若葉色の瞳が活発そうな光を帯びてイオリとあたしの間をせわしなく動いていた。
いかにも興味津々といった様子。おお、なんか瞳が輝いてるぞ。
ただ、それを壊すようで悪いけれど、
「あたしも知らないよ。ただほら、うちの顧問の夏夜先生。あの人の弟だから、昨日たまたま顔合わせたっていう、ただそれだけ」
ただそれだけのことで、なんであたしが案内なんて…。あ、なんか改めて考えるとすっごく理不尽だ。
ふと遠い目になったあたしに気付かず、ツル(彼女の愛称)は更に目を輝かせ、
「そっかあ。へえ。夏夜ちゃん先生の弟くんなんだあ」
「ていうか、チーちゃん夏夜先生のこと知ってたっけ?」
「…そうだよねえ。ツルってばどうして知ってるの」
イオリが首を傾げた。少し考えてから、あたしも同意する。うちの学年の担当になったことは一度もないし、じゃあ何かの教科担任とか? でも今のクラスで夏夜先生が担当のものなんて無いし。それなら一年の頃に? あれ、その前のあの先生、なんの教科の担当なんだ?
「えっとね、夏夜ちゃん先生はね、ボランティア委員の先生だから。それで面識あるの」
「でもチーちゃんはボランティア委員じゃなかったよねえ。学級委員だし」
「あ。あのね、あたし結構ボランティアとか参加させてもらっててね。それで、だから」
そう言ってにこにこと笑うツルに、あたしは顔を引き攣らせた。別にツルがどうとかそういうんじゃない。ただあの人がボランティア委員会の担当だったというある意味衝撃の事実にちょっとばかり驚いていただけだ。
あの人がボランティア? いや、別にその心掛けはとても良いことだと思う。
…が!
その前に自分のこと(主にあの資料室)をどうにかしろよとか心の底から思ってしまったあたしを、誰が責められようか。
それにきっと、そう思うのはあたしだけじゃない気がするんだ。具体的な例をあげろと言われたら困ってしまうけど、でもそんな確信がある。絶対、あたしだけじゃ、ない。
だからといって、何が変わるわけでもないが、あたしはそんなことを考えた。
++ 近江利央(オウミ・リオ) ++
青い空を見るのが夢。面倒臭がり屋だが、苦労性。
++ 久遠イオリ(クオン・イオリ) ++
利央の幼馴染兼親友。小一からずっと同じクラスという仲(利央曰く、腐れ縁)。面白いことが好き。
++ 加嶋夏夜(カシマ・カヨ) ++
写真部顧問。男勝りな性格。部室である資料室を占拠している本やら何やらは、大半がこの人の私物。
++ 加嶋冬夜(カシマ・トウヤ) ++
夏夜の弟で、転校生。空色の瞳を持つ。